かならず 読んでください

臨床コミュニケーション

Human Communication in Practice, Human care in practice, Clinical Communication


解説:池田光穂

ある具体的な解決を目的としておこなわれる対人コミュニケーションのこと(→「3 分でわかる臨床コミュニケーション01」「よい臨床コミュニケーション」)。

もっとも典型的な例は、医療現場における医療者と患者の間でみられる相互作用である(クリニカル・コミュニケーション;Clinical Communication)。ここで言う医療者とは、かならずしも医師だけをさすわけで はない。また、患者は、一般には病者とよばれ、広義には家族も含まれる。

しかし、臨床の現場におけるコミュニケーションに類する行為は、学校教育の場、心理カウンセリングの現場、法律相談、友人間の悩み事の解決な ど、さまざまな局面でみられる。 臨床コミュニケーションの教育が、医療者、カウンセラー、教育者などの専門家以外にも必要なことは、患者学のように、相談する者と相談される者の間では、 さまざまな技法の習得が期待されているからである。

また、相談される者である専門家もまた(その例として医師がガンになり入院することを想定したまえ)相談する者になるからである。

医療・福祉・コンサルテーションなどの業務は、具体的な専門知識と技量を有する人間と、問題を抱えその解決を求める人間のあいだのコミュニケーションを基調とする。治療・ケア・対応策を授けるといった具体 的業務においては確実さと信頼性を確保するためには現場における対人的コミュニケーションは不可欠であろう。またこの種のコミュニケーションは、つねにそ の成果を現場にフィードバックするものであり、現場から得られる知恵の習得・継承・発展は欠かせない。

人間が社会的生活をおこなうかぎり続いてゆく、具体的な結果を引き出すためにおこなう対人コミュ ニケーションのことを、私たちは「臨床コミュニケーション」(human care in practice)と呼ぼう。そして、その教育において育てられる人たちを「臨床 コミュニケーター」と呼ぶことができる。臨床 コミュニケーターは、その人の一生の職業であり、また、元患者がビア・カウンセリングにたずさわると、その人も永続的な臨床 コミュニケーターになる。

臨床コミュニケーションの場は、つねに具体的な状況——〈社会的文脈〉と呼ぶ——のなかで起こる。より適切な臨床コミュニケーションを生み出す ためには、個々のコミュニケーションが、どのような社会的文脈と結びつくのかを検討し、具体的な場——それが私たちの言う〈臨床〉にほかならない——で検 討することが重要になる。

それに比して、ヘルスコミュニケーションとは、「健康と病気にかんする保健領域 における(個人対個人、個人対集団、集団対集団などの様々なタイプの)対人コミュニケーションのことである」(→出典ヘルスコミュニケーション」「ヘルス&クリニカル・コミュニケーション」)

【復習問題】

最後に偉大な社会哲学者の引用から:「人間の行為は、絶海の孤島のロビンソンを除けば、本質的につねに必ず相互=行為である。なぜなら、人間 「である」ことは、つねに社会のなかで生きることに等しいからである」(今村仁司「社会空間の概念」p.46、『社会空間の人類学』西井涼子・田辺繁治 編、Pp.32-47、世界思想社、2006年)

【臨床概念にまつわるより高度な問題】

課題:以下のミッシェル・フーコーについて考えてみよう

臨床経験は、それを受け入れた医師や医学生たちに よって、現場で患者と純粋に出会うこと、ベッドサイドに行かねば臨床は始まらな いと単純に理解されているが、そんな単純なものではない。臨床の現場は、医師と患者が「逃れられない」情況のなかでのみ生まれる固有で貴重な経験とみなさ れているが、実際には、医学的に統制された環境のなかで、予断と偏見から自由になれたと思いこまされる、つまり客観的な遭遇の空間ではあるが、実際には医 師と患者は(思ったほどには、あるいは全く)コミュニケーションしていない遭遇の空間なのだ」(出典:神谷美恵子訳『臨床医学の誕生』の翻訳にまつわる問題

仮想・医療人類学・辞典から アクセスした人はこちらから戻れます。


Copyleft, CC, Mitzub'ixi Quq Chi'j, 1996-2099