質的研究のデザイン
Qualitative Study and Ethnography:
An introduction
社会研究には2つのアプローチがある。ひとつは、 (A) なにか量的な単位で計測できる研究戦術をたてて、それをカウントして、(i)計量的な状態を記述したり、(ii)観測事象(観測された事実)から何が起 こったかを(ベイズ確率にもとづき)推論する方法[Bayesian inference]である。これらを量的研究あるいは量的アプローチ(quantitative approarch)という。それに対して、(B)質 的研究ないしは質的なアプローチ(qualitative approarch)とは、量に還元できない指標に着目して、語りや観察を通して、出来事を記述して、何が起こったのか/どうして起こったのか/どのよう にしておこったのか/なぜ起こったのか、等々を調べ上げるやり方のことである。
Bayes' theorem,
from https://en.wikipedia.org/wiki/Bayes%27_theorem
時々、お馬鹿で間抜けな自称「理系」教師が「質的な アプローチは科学ではない。量的なアプローチが本物の科学である」と寝ぼけたことを言うが、どのような量的な指標をとるのか、指標にどのようなインデック スをつけるのか、出てきた量的なデータの検証(しばしば統計と確率というアイディアを用いる)などに、質的な推論は欠かせないために、このような無益なこ とを言う教師は避けたほうがいい(もちろんすばらしい理系の教師はたくさんいらっしゃいます)。本当の馬鹿である可能性(蓋然性)が高い。
人文科学・社会科学における定量的研究
(qualitative approach)の嚆矢であるポール・ラザスフェルド(Paul F. Lazarsfeld,
1901-1976)は、しばしば、量的な研究の立て役者だと言えるが、トーマス・クーン流のパラダイム論的にみて、「質的研究」らしい研究が隆盛した時
代——当時はまだ質的研究者という自己認識を持つ者は少なかったし、また術語も十分に膾炙していなかった——当初は顧みるものが少ないマイナーなアプロー
チであった。しかし、社会科学が数量的な革命を通して、論文生産のための科学として立派に機能し、統計的な分析の授業科目として確立する過程のなかで、質
的な研究もまた、それに負けじと、対抗概念が形成されていったのである(→「量的研究と質的研究の
バトルロイヤルの神話」)。
というわけで、今日、質的アプローチを とる人で、多少なりとも良識(bon sens, sensus communis, κοινὴ αἴσθησις)のある人は、質的研究と量的研究は、お互いの強みをリスペクトし、両者の間のアプローチを相互に補完し、共通の目的にむかってまい進す る存在論的なアプローチであることを認識することが重要である。
■YouTubeレクチャー(フリック,ウヴェ『質的研究入 門』小田博志ほか 訳、春秋社、 2002年に準拠)
■レクチャー(フリック,ウヴェ『質的研究入門』小田博志ほか 訳、春秋社、 2002年に準拠)
■付録リンク
リンク
文献(★はこのページで準拠しているテキストです)
その他の情報
●クレジット:「質的研究のデザイン:方法論的対話」.なお類似のページとして「質的研究のデザイン:連続レクチャー」があります Qualitative Study and Ethnography: An introduction
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