はじめによんでください

質的研究のデザイ ン:レクチャー:06

On Qualitative Study and Ethnography:06

池田光穂

グループワークの課題

1)インタビューにおける発語のシークエンスと、会話分析の資料である発語シークエンスの、共通点と相違点をあげて、比較検討しなさい。

2)イアン・パーカーは「『ナラティブ』とはアイデンティティの物語として自己を演じることである」 ('narrative' is the performance of the self as a story of identity.)(翻訳: p.98、原著:p.70)これは、みなさんが考える「ナラティブ」の定義とは異なるように思われる。まず、各人は、これまで思っていた「ナラティブ」を 定義してから、イアン・パーカーのこの定義の是非(イケてる?/イケてない?)をみんなで論じよう。

※Ian Parker, Qualitative psychology : introducing radical research,  Open University Press c2005(ラディカル質的心理学 : アクションリサーチ入門 / イアン・パーカー著 ; 八ッ塚一郎訳, 京都 : ナカニシヤ出版 , 2008


16. シークエンス分析:シークエンスは繋がり・連なりのことでであり、それは会話や語り、あるいは言説の「連なり」のことだ。それを分析する。

うちは、こげん体になってしもうてから、いっそうじいちゃん(夫のこ と)がもぞか(いとしい)とばい。見舞にいただくもんなみんな、じいちゃんにやると。うちは口も震ゆるけん、こぼれて食べられんもん。そっでじいちゃんに あげると。じいちゃんに世話になるもね。うちゃ今のじいちゃんの後入れに嫁に来たとばい、天草から。

嫁に来て三年もたたんうちに、こげん奇病になってしもた。残念か。うちはひ とりじゃ前も合わせきらん。手も体も、いつもこげんふるいよるでっしょが。自分の頭がいいつけんとに、ひとりでふるうとじゃもん。それでじいちゃんが、仕 様ンなかおなごになったわいちゅうて、着物の前をあわせてくれらす。ぬしゃモモ引き着とれちゅうてモモ引き着せて。そこでうちはいう。

(ほ、ほん、に、じ、じい、ちゃん、しょの、な、か、お、おな、ご、に、 なった、な、あ。)うちは、もういっぺん、元の体になろうごたるばい。親さまに、働いて食えといただいた体じゃもね。病むちゅうこたなかった。うちゃ、ま えは手も足も、どこもかしこも、ぎんぎんしとったよ。

海の上はよかった。ほんに海の上はよかった。うちゃ、どうしてもこうして も、もういっぺん元の体にかえしてもろて、自分で舟漕いで働こうごたる。いまは、うちやほんに情なか。月のもんも自分で始末しきれん女ごになったも ね......。

うちは熊大の先生方に診てもろうとったとですよ。それで大学の先生に、うち の頭は奇病でシンケイどんのごてなってしもうて、もうわからん。せめて月のもんば止めてはいよと頼んだこともありました。止めゃならんげなですね。月のも んを止めたらなお体に悪かちゅうて。うちゃ生理帯も自分で洗うこたできんようになってしもうたっですよ。ほんに恥ずかしか。

うちは前は達者かった。手も足もぎんぎんしとった。働き者じゃちゅうて、ほ められものでした。うちは寝とっても仕事のことぽっかり考ゆるとばい。

今はもう麦どきでしょうが。麦も播かんばならんが、こやしもする時期じゃが と気がもめてならん。もうすぐボラの時期じゃが、と。こんなベッドの上におっても、ぼろぼろ気がモメて頭にくるとばい。

うちが働かんば家内が立たんとじゃもね。うちゃだんだん自分の休が世の中か ら、離れてゆきよるような気がするとばい。握ることができん。自分の手でモノをしっかり握るちゅうことができん。うちゃじいちゃんの手どころか、大事なむ すこば抱き寄せることがでけんごとなったばい。そらもう仕様もなかが、わが口を養う茶碗も抱えられん、箸も握られんとよ。足も地[じだ]につけて歩きよる 気のせん、宙に浮いとるごたる。心ぼそか。世の中から一人引き離されてゆきよたる。うちゃ寂しゅうして、どげん寂しかか、あんたにやわかるみゃ。ただただ じいちゃんが恋しゅうしてこの人ひとりが頼みの綱ばい。働こうごたるなあ自分の手と足ばつこうて。

海の上はほんによかつた。じいちゃんが艫櫓[ともろ]ば漕いで、うちが脇櫓 ば漕いで。

いまごろはいつもイカ籠やタコ壷やら揚げに行きょった。ボラもなあ、あやつ たちもあの魚どもも、タコどもももぞか(可愛い)とばい。四月から十月にかけて、シシ島の沖は凪[なぎ]でなあ—

17. テキスト解釈法の概観(pp.264-)

18. 質的研究の基礎づけと価値基準


1)「データのトライアンギュレーション」

2)「調査者のトライアンギュレーション」

3)「理論のトライアンギュレーション」

4)「方法のトライアンギュレーション」


19. 質的研究の執筆

「社 会科学の実践は、もっぱらテキストを生み出すこと」(Wolff 1987:333)

19.1  執筆の実践的機能:研究結果の提示

19.2  執筆の正当化機能

19.3  執筆の反省的機能

19.4  科学が文体に解消される?

1)インタビューにおける発語のシークエンスと、会話分析の資料である発語シークエンスの、共通点と相違点をあげて、比較検討しなさい。

2)イアン・パーカーは「『ナラティブ』とはアイデンティティの物語として自己を演じることである」 ('narrative' is the performance of the self as a story of identity.)(翻訳: p.98、原著:p.70)これは、みなさんが考える「ナラティブ」の定義とは異なるように思われる。まず、各人は、これまで思っていた「ナラティブ」を 定義してから、イアン・パーカーのこの定義の是非(イケてる?/イケてない?)をみんなで論じよう。

※Ian Parker, Qualitative psychology : introducing radical research,  Open University Press c2005(ラディカル質的心理学 : アクションリサーチ入門 / イアン・パーカー著 ; 八ッ塚一郎訳, 京都 : ナカニシヤ出版 , 2008

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