比較文化精神医学A
comparative psychiatry, transcultural psychiatry
解説:池田光穂
[定義]
人間の心理、精神的な疾患の比較を通して、それらの共通的普遍性と文化構造に関連づけられた表出の多様性について研究する精神医学の一領域研究を比較文化精神医学と言う。エヴァンズ=プリチャードによると、19世紀の比較研究は、2つ以上の文化要素を集めて「起源」を探求するものであったのに対して、20世紀のそれは「限れらた領域のなかでの限られた事実の範囲」についての比較検討がなされるという。この授業における比較精神医学の比較も、後者のほうに関心があることは言うまでもない。(ニーダム翻訳の、エルツの死の集合表象に関するエヴァンズ=プリチャードのコメンタリー)
[類似語]
比較文化精神医学、トランス文化精神医学、比較精神医学、トランスカルチュラル精神医学、超域文化精神医学、異文化間精神医学、民族精神医学
[キーワード]
精神障害、文化人類学(医療人類学)、精神医学、比較文化論、社会統制論、心理人類学
[キーフレーズ]
"A special concern was to show that the syptomatology of the "mentally ill" may sometimes have more to do with the structure of public order than with the nature of disordered minds,"(Goffman 1963:242).
「重要な点は、精神病の兆候学は、しばしば、異常な心の本質に関わることよりも、むしろ公共の秩序の構造に関わっていることである」(ゴッフマン 1963)。(池田註:ここでは、「異常な心の本質」を生物学的な現象、「公共の 秩序の構造」を文化・社会的現象として理解してくださ い)。
[文献]Behavior in public places : notes on the social organization of gatherings / Erving Goffman. - New York : The Free Press. - London : Collier-Macmillan , 1963
[リンク]
[授業の目標または授業概要]
この授業は現在(2009年)開講されていません。以前、開講された授業の内容のシラバスを、アップデートしながら公開しているものです。 もちろん、このような説明は、未来におけるこの授業の開講の可能性を妨げるものではありません。
この授業は、比較文化精神医学(comparative psychiatry)あるいはトランス文化精神医学(transcultural psychiatry)と呼ばれる学問分野についての入門授業です。この学問分野は精神障害の文化的、社会的側面に注目します。つまり文化人類学や社会学 上でしばしば議論される、精神的な逸脱行動あるいは「狂気」の社会的文化的相対性と普遍性について研究する分野です。
[授業の内容]
授業の内容は、比較精神医学の成り立ちと基本的な概念の紹介(1,2)——括弧内の数字は以下の授業スケジュールの回数を示します——に 始まり、正常と異常が当該の社会や文化によってどのように規定されるのかついて考察し(3,4)、ストレスの社会的あるいは文化的な構成について検討しま す。ここまでが導入部です。
次に、具体的な記述研究が蓄積されてきた文化結合障害(Culture-Bound Disorder)の事例の紹介と検討(6,7,8)に入ります。ここにおいて病像の理解やその対処行動において、文化的な要因を理解することがいかに重 要なのか(9,10,11)について焦点があてられます。この授業の中心をなす部分です。
最後は、この学問の歴史性(12,13)について考えます。なぜ、この学問が確立したのか、その現代的意義とは何なのか、そして学問の未 来について、討論を中心にして考えます。
スケジュール
0.授業のすすめ方について(解説)
1.授業のすすめ方について(希望者が多い場合は試験、少ない場合は講義)
2.比較文化精神医学の概観
3.正常と異常(1)
4.正常と異常(2)
5.精神疾患における文化的社会的ストレス
6.Culture-Bound Disorder概論
7.Culture-Bound Disorderの諸事例の検討(1)
8.Culture-Bound Disorderの諸事例の検討(2)
9.伝統的治療システム
10.近代的治療システム
11.精神障害の歴史と疫学
12.理論的課題
13.応用的問題(基本的な)
14.応用的問題(高度で応用的な)
15.試験
授業形態:
少人数によるゼミナール(受講前に必ずシラバスを読んでください)
テキスト:
Kiev, A., 1972. Transcultural Psychiatry. Macmillan(翻訳、A・キーフ『トランス文化精神医学』近藤喬一監訳、誠信書房、1982年は、版元品切れ寸前です。注文は各自で お早めに)
参考書(順不同):
評価方法:
ゼミナールによる発表、口頭試問(試験)
[この講義内容を深めたり、広げたりするための指針]
ソクラテス的討論(対話的問答)を旨とします。毎回の出席と討論への積極的参加を受講生に要求します。内容は多少高度ですが、最初から難 解な用語で学生を煙に巻くようなことは、教師はいたしません。こつこつと努力を積み上げていけば、分かるような教育と指導をモットーとします。
リンク
参考文献(授業において配布しました)
クラインマン、A.とA.コーエン「途上国の精神障害 4つの神話」『日経サイエンス』1997年6月号
Copyright Mizu Ikeda, 1998-2009