EPA にもとづく看護師・介護福祉士候補者の受け入れ制度について考える
Re-thinking
about care workers' trans-national Immigration toward Japan by Economic
partnership agreement
EPAにもとづく看護師・介護福祉士候補者の受け入れ制度について考える
◎EPAとは?
日本の財務省(Ministry of Finance Japan)によると「経済連携協定(EPA:Economic Partnership Agreement)とは、2以上の国(又は地域)の間で、自由貿易協定(FTA:Free Trade Agreement)の要素(物品及びサービス貿易の自由化)に加え、貿易以外の分野、例えば人の移動や投資、政府調達、二国間協力等を含めて締結される 包括的な協定」のことをいう。[出典:http: //www.mof.go.jp/jouhou/kanzei/fta_epa/fta_epa.htm]。
「物品貿易に係る自由貿易協定」が規定する具体的内容は、世界貿易機関(WTO)によるGATTの24条がその典拠となり「構成国間の実質 上全ての貿易について妥当な期間内に関税等を廃止すること」と「域外国に対する関税を引き上げないこと」の2つの要件を満たす場合は、最恵国待遇(さいけ いこくたいぐう)してもよいというふうにWTO原則の例外として容認されるという。最恵国待遇とは、すべての加盟国に対し無差別な待遇をおこなうことであ る。
◎EPAに関する日本政府の方針
日本のEPAに関する基本方針は財務省の同ウェブページによると次のとおりである。「2004年12月21日に開催された経済連携促進関係 閣僚会議において、EPA交渉相手国・地域を決定するに当たっての考え方等が整理され、「今後の経済連携協定の推進についての基本方針」として決定され」 た。そして「2006年5月には、EPAに関する取り組みを推進する上で念頭に置くものとして、EPA交渉に関する工程表が作成され、最近のEPAに関す る取り組みの進展を踏まえ、2008年3月にEPA工程表が改訂され」た。『経済財政改革の基本方針2008(6月27日閣議決定)』では、EPAは「経 済成長戦略の中のグローバル戦略の柱の1つとして経済連携の加速が重要であり政府一体となって取組を進める」方針について記載されているという。[出典: http://www.mof.go.jp/jouhou/kanzei/fta_epa/fta_epa.htm]。
◎外国人看護師・介護福祉士候補者の受入れ(2016年6月現 在)
◎2016年9月における現状と課題(池田:2016年)
1. これまで日本政府・JICWELS(公益社団法人・国際厚生事業団)が推進してきたEPA(経済連携協定)における「外国人看護師・介護福祉士候補者」制 度は、日本国内における看護業務ならびに介護福祉業務における《労働力補填》のために発足したことは明白であり、この目的は現在でも維持されている。
2. EPA(経済連携協定)における「外国人看護師・介護福祉士候補者」制度は、他の日本における労働力調達制度、たとえばJITCO(公益財団法人・国際研 修協力機構)における「外国人技能実習制度」に比べれば、外国人労働者の労働環境ならびに保護と指導が相対的に良好な制度である——両財団とも業務改善や 適正化においては進展がみられるものの。その理由は、1)職域、2)リクルート制度、3)資格取得への支援制度を通した定着への「配慮」、という3つの条 件の優位性によるものである。
3. 最新(2016年9月現在)の情報よると、これまでの累積来日者4千人のうち合格者は6百名(15%)であり、この合格者は向上している。ただし、合格率 の向上に寄与しているのは、研修先の日本語指導や合格率をあげるための特別の指導という「受け入れ現場の努力」によりものだと考えられる。このような職域 の職員の支援と労働現場の配慮には純粋な意味での人間的支援というものがあるが、それにもまして、労働力の確保という切実な課題がある。
4. さらに、合格後の定着は7割弱であり、3割以上は離日(=出身国への帰国)や職場からの離脱などの問題を抱えている。合格後の定着を7割としても、来日総 数から推計しても(600x0.7/4,000x100=)10.5%となり、看護・介護福祉の専門職の移民労働者の支援制度および労働経済学という観点 から言えば、非常のパフォーマンスの悪い制度のままであり、今後の改善が求められる。
5. 外国人労働者が、日本に中期的あるいは長期的に滞在して看護・介護福祉の専門職として定着することは、労働供給の観点からみて好ましいことであるが、それ は労働者の人権や良好な労働条件を満たしてこそ、社会と個人の間の関係におけるウィン=ウィン関係が確保できる。これまでも課題であったが、今後も、改善 がもとめられる点であるところの、1)良好な研修体制の維持と資格制度の合格率の向上、2)合格後の労働条件のみならず日本人労働者との格差解消、3)研 修中ならびに修了後の円滑な定着の促進、4)専門職外国人労働者の権利擁護の進展、が課題となるであろう。
■ローカルでは明るいニュースが国際的にはそうではないこともある。
「インドネシアの看護師2人が、日本の看護師を目指して今月から、嬉野市の国立病院機構嬉野医療センターで看護助手として働いている。2人 は同センターで日本語や日本式の看護について学びながら、国家試験に挑戦する。そんな2人を職場として支え、母国の文化についても理解しようと、同セン ターは26日、県国際交流協会の国際理解講座を開いた。/来日しているのは、スリ・インリアニさん(26)とウフメイネルさん(28)の2人。職場では 「明るく真面目で、よく勉強する」と資質を評価されているという。/日本はインドネシアと看護師候補者を受け入れる内容を含む経済連携協定を結んでおり、 同機構としても受け入れを始めた。2人は母国と日本でそれぞれ半年間、日本語を学んだ後、同センターに着任した。/2人によると、「日本の看護師はインド ネシア人にとってあこがれの職業」。同センターでの仕事については「佐賀弁は難しいが、日本の看護師は皆さん優しく、言葉が不自由な私たちにも我慢強く教 えてくれる」と笑顔で話した。/講座では同協会のスリ・ブディ・レスタリさん(39)が講師を務め、インドネシア国民の約9割を占めるとされるムスリム (イスラム教徒)の生活習慣などを説明。看護師など約50人が聴講した」佐賀新聞LIVE(2017年12月28日)http://www.saga- s.co.jp/articles/-/164495
「嬉野市の国立病院機構嬉野医療センターで看護助手として働いている」という出身国では看護師資格なのに、労働移民先では格下として扱われ ることは、WHOでは、保健人材の流出と世界的は不均等の原因として、是正が必要だという勧告をだしています。もちろんこれは制度や政治の枠組みからだけでなく、労働者の国際移動の自由、労働の自由、この 地球上で労働者として公正に処遇される権利なども含まれています。日本はなんでも国連や国際基準の話になると大好きなのですが、この問題に は沈黙。国際保健政策の専門家の倫理と道徳が問われています。
文献
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用語集
《以下:アーカイブ=過去の情報の文書館です》
◎看護師・介護福祉士候補者の受け入れにかんする諸問題(池田の個人的メモ 2010年2月22日)
1.EPAスキーム
EPAはWTOの政策指針の基本的なものであるFTAのスキームから生まれてきたものである。その日本での所管は外務省である。[「自然人 の移動」や「サービス貿易」というものが鍵概念となる]
2.先行形態の存在
外国人看護師の養成や受け入れ事業には(旧)厚生省時代のAHPネットワーク協同組合によるものなど、先行形態がある。しかしながら、その 実施運用方法には、EPAにもとづく2007年(?)以降の受け入れについては、その構想やアイディアにおいて著しい違いがある。この論点をきわめて明確 に表明しているものは、(社)日本看護協会によるニュースリリース(2006年9月12日)があり、その指摘は概ね的確である。
3.EPA制度については、さまざまな制度的あるいは社会文化的問題が指摘されている。
3.1 EPAのパートナー国における看護師を、日本国内においては看護師・介護福祉士候補者としてグレードダウンして処遇することについ て国際世論上の問題点の指摘。これは言い換えると「日本政府および医療法の実行にかかわる日本側当事者たちは、EPAパートナー国における看護師の水準を 我が国のそれと比べて低くみている」という心証を国際社会に与えている。
3.2 EPAによる看護師(3回まで)・介護福祉士(1回まで)の受験回数を制限して、それ以降の日本滞在のビザの延長を認めない。また 両試験の受験[候補者はそれぞれコースが定められていて両方を受験することはできない]の合格者はその在留資格を最長7年までの就労しか認めていない。つ まり最終的には相手国に帰還することを前提としている。(法務省は最長7年の期限についての見直す可能性もある)。
3.3 研修中の労働者としての十全な権利を認めていない。労働場所を変える権利や労働選択の自由など。このような方式は一般的に「管理労 働型の雇用」と言われており、送り出し国や国際世論からは批判的される原因になっている。
3.4 研修中の日本語での受験に対策に関しては、受け入れ機関が研修する費用と機会を提供することを求められているが、研修先の地理的条 件や受け入れ人数が少数のため個別の日本語指導などができていない状況にある。[自治体による良好な派遣サービスをやっていると指摘されているのは東京都 と神奈川県であると言われている]。つまりこれらは受入機関の責任であるというよりも、派遣事業の構造的問題であると言われている。
3.5 実際に就業する側と「候補者」とのマッチング制度の不備や不透明性、候補者の日本語能力の程度が十分に事前に把握できないという問 題点が内外から指摘されている。(現地エージェントを介した面接試験などによる選別的リクルート)。
3.6 日看協および日本の医療労働組合は、医療専門職の外国人労働者の受け入れについては基本的に消極姿勢(解釈次第では反対姿勢)を打 ち出していること。ただし、個々の現場や受け入れを担当する医療専門職および自治体のなかには歓迎姿勢を示しているものも多く「日本の医療専門職はEPA による候補者の受け入れについては賛成/反対である」という一般化は決してできない。
3.7 候補者のマッチングならびに選別において、男性候補者の受け入れがなく、採用する側にジェンダーバイアスが明らかにかかっていると いう事実がある。
3.8 日本語による日本語教育をおこなう教育関係者の間では、受け入れる時点で「日本語検定二級」程度あるいはそれ以上の資格者でない と、日本での日本語の追加研修を受けても合格水準に到達できないのではないかという危惧がある。
4.現状分析と判断
EPAに関するこれまでの日本国内での研究者や教育関係者による議論「EPAと外国人看護師・介護福祉士候補:背景・受け入れ実態・課題」 (2010年2月13,14日:神田外語学院:神田外語大学異文化コミュニケーション研究所・奥島美夏先生・ 主宰)および両国政府関係者、自治体や推進関係者による議論(2010年2月21日:静岡市もくせい会館)がおこなわれ、さまざまな観点から議論が始まっ たばかりである。
時間的にみてまだ候補者たちから合格者を輩出していないという実質的な理由もあり、そのステイクホルダーの重要なる一員である、候補生当事 者による発話のスペースをどのように確保するのかということが、将来課題になるかもしれない。
このことに関する医療側の重要なステイクホルダーの代表としての日看協関係者の姿勢は受け入れ反対の立場は維持している模様である。
2010年2月21・22日の両日に実施された看護師国家試験では、フィリピンとインドネシア両国の254人(派遣員数の7割に相当)が受 験して、同年3月26日の合格発表時によるとインドネシア人それぞれ男女1名およびフィリピン人1名の合計3名の合格者を出した。この合格率は1.18% で、日本人を含めた全体の合格率89.5%とは著しい対比をなしている(2010年3月26日毎日JP報道)。
◎看護師・介護福祉士候補者の受け入れに関しての提言(池田光穂 2010年2月22日)
1.何のためのEPAか?誰のためのEPAか??
政府間の約束や合意がいかなるものであれ、労働者の移動を伴う「サービス貿易」であるため。労働者の国際移動にともなうさまざまな格差の 是正や国内外の法や憲章による人権の保障は不可欠である。それらは二国間の外交的関係においても、WTOのルールや国際法に照らして適正なものでなければ ならない。
2.ステイクホルダー間におけるウィン=ウィン(win-win)を目指そう!
EPAの制度的問題を指摘する勢力には、あらゆる国際的な労働移動に関する議論で登場する「制度容認改善派」と「制度批判派」に二極分解 する傾向がある。このような議論の二極化には、ステイクホルダーの利益をまず最初に考えるべきであり、また常に「何のためのEPAか?誰のためのEPA か??」を問い続けることが必要である。
そこで基本的に考える議論誘導のプラットフォームはウィン=ウィン(win-win)を目指すものでなければならない。例えば日看協の ニュースリリース(2006年9月12日)で主張されている内容は、今日においても色あせていない。しかしながら、現在のEPAの規模やその実施形態、あ るいは事業の成否という観点からみると看護師・介護福祉士候補者の受け入れ制度枠組みは、かならずしも理想的なものとはいえない。だが、もしこのような状 態を放置していたら一体誰が迷惑を被るかを、我々は真剣に議論すべきだ。なにも対策を打たなければ敗北=敗北(lose-lose)になり、すべてのステ イクホルダーつまり、EPA候補者、現場の医療関係者、患者、双方の当事国政府、日本社会と相手国社会のすべてが「無駄なパイロット事業」の犠牲になるこ とは必定である。
とりわけ原則は正しいが、規模の経済という観点からは無用な杞憂に終始している日看協のニュースリリース(2006年9月12日)は、よ い反面教師になる。その点では、国際協約や合理的枠組のゲームにしか関心がなく、現場のことをネグレクトしている外務省の理解(=「サービス貿易」)を参 考にするほうが我々(=EPA締結における両国の市民)にとってより功利的に役立つはずだ。
3.ウィン=ウィン(win-win)を目指すうえでの時間的尺度区分について自覚的になろう!
ものごとの解決方法の案出と、その実行と評価には、論理的(合理的)手続きが不可欠であるが、また時間的尺度について考慮することも重要
である。EPAにもとづく看護師・介護福祉士候補者の受け入れ制度の改廃を含む改革を試みるにせよ、協定の締結手続きと同様、行程表を立案することが重要
である。つまり(1)短期的解決策の策定・実行・評価、(2)中期的解決策の策定・実行・評価、(3)長期的解決策の策定・実行・評価、で考えることが重
要である。もちろん本件に関する時間的尺の長短もまた重要な検討課題であることは言うまでもない。
サイト内リンク
文献
我
々は何をなすべきか
(2013年6
月29日の研究会報告)於:天理大学
■EPA研究の時系列
■
移民研究
歴史的アプローチ
制度社会学的アプローチ
経済的アプローチ(人口論を含む)
個別アプローチ(民族誌、社会言語学、ジェンダー論)
■
ジェンダー問題
国境を越えた「感情労働」論(“emotional labor” in transnational context)
ホックシールドの感情労働論は、ゴッフマンとマルクスの議論の統合。成功した面と不完全な面を自覚しない「感情」のみに焦点化した議論はナンセンス
搾取労働論(ルクセンブルグ)の導入が必要かもしれない。
■
言語問題
理論的/応用的関心
現実的問題
言語使用における「社会差別」論
実践的介入は、すべてのテーマに関して、顕著な問題解決には貢献していない
■
人口問題
population: 個体数、頭数、生物学的、統計的現象
demography: demos=群衆・民、-graphy=記述、政治経済的、政治社会的現象
■
アジア人口問題テーゼ
アジアの経済成長は人口ボーナスによる可能性が高い。
アジアの人口構造が変化し、それを「放置」しておくと、同地域における経済問題を鈍化させ、今後、同地域における社会に大きな問題となる。
小峰隆夫+日本経済研究センター編『超長期予測老いるアジア』日経新聞社、2007年
■
人口問題と技術刷新
人口トレンドは比較的予測しやすい
予測し難いのは技術イノベーション(IT・エネルギー)と政治変動要因(冷戦構造、テロリズム、虐殺)
人口ボーナス<v.s.>人口オーナス
日本は1950-70s=bonus, 95-=onus
アジア65-70=beginning bonus, 2K-=onus
■
人口増加と高齢化
2005
65億(世界)
1.3億(日本)
7.3%(世界)
20.2%(日本)
2050
95億(14.6億人)
9千万
15.5%(65歳以上)
40.0%
pdf file : HyperAgedSciety2013.pdf
◎今後の研究の方向性に関する提言(池田光穂 2013年6月30日)
今後の研究の方向性に関する池田からの提 言は以下の3点である。
◎報道から(朝日新聞デジタル 2016年9月18日)
定着後の問題を指摘する、朝日新聞デジタルの下記の 記事(一部)を参照のこと
「来日前はインドネシアで小児科の看護師として働い
ていた。EPAの募集を知ると、アニメで憧れた日本に行けると夢が膨らみ、2009年に応募した。来日後、4年間は施設で働きながら研修をする。仕事は楽
しく、覚えた日本語で利用者と冗談を言い合った。夕方には自習時間があり、月2回は日本語教室に通わせてもらった。日本の制度や専門用語は難しかったが、
過去の問題を頭にたたき込み、14年に介護福祉士の試験に合格した。ところが、合格後に生活は変わった。国が補助金をつけて施設に研修を義務付けているの
は合格するまで。勉強の時間はなくなり、家賃の補助も出なくなった。合格しても給料はほとんど上がらず、長期休暇も取りづらかった。昨年末から夜勤リー
ダーの見習いが始まった。最初ははりきったが、期待はすぐにしぼんだ。日勤への申し送りは、15分間で入所者42人分の夜間の状況を口頭で伝える。「失禁
があって全更衣しました」など日常会話では使わない言葉を早口で言う。発音が悪いと、「何を言っているか分からない」とダメ出しされた。毎晩残って練習
し、3カ月間の見習い期間の最後に臨んだ試験。5人分の状況を伝えるのに10分かかったところで、打ち切られた。このころ、日本の受け入れ機関である国際
厚生事業団にメールで送ろうと、書き留めた文章がある。「ずっと我慢して仕事をしながら、申し送りの勉強をしていましたが、やはり疲れました」ログイン前
の続き追い詰められて笑顔をなくし、帰り道に何度も涙を流した。上司に「辞めたい」とこぼすと、「今の状態じゃどこも雇ってくれない」と返された。たまた
ま母国で結婚話が持ち上がり、帰国を即決した。「頑張って頑張って合格したけど、もっと高い壁がある。私は日本人と同じようにはなれない」」(松川希実・
森本美紀による署名記事「外国人看護師・介護士、難しい定着「もう疲れ果てた」」)
出典:http:
//digital.asahi.com/articles/ASJ8J354HJ8JUTFL001.html?rm=832(2016年9月18日)
1.
これまで日本政府・JICWELS(公益社団法人・国際厚生事業団)が推進してきたEPA(経済連携協定)における「外国人看護師・介護福祉士候補者」制
度は、日本国内における看護業務ならびに介護福祉業務における《労働力補填》のために発足したことは明白であり、この目的は現在でも維持されている。
2.
EPA(経済連携協定)における「外国人看護師・介護福祉士候補者」制度は、他の日本における労働力調達制度、たとえばJITCO(公益財団法人・国際研
修協力機構)における「外国人技能実習制度」に比べれば、外国人労働者の労働環境ならびに保護と指導が相対的に良好な制度である——両財団とも業務改善や
適正化においては進展がみられるものの。その理由は、1)職域、2)リクルート制度、3)資格取得への支援制度を通した定着への「配慮」、という3つの条
件の優位性によるものである。
3.
最新(2016年9月現在、上掲)の情報よると、これまでの累積来日者4千人のうち合格者は6百名(15%)であり、この合格者は向上している。ただし、
合格率の向上に寄与しているのは、研修先の日本語指導や合格率をあげるための特別の指導という「受け入れ現場の努力」によりものだと考えられる。このよう
な職域の職員の支援と労働現場の配慮には純粋な意味での人間的支援というものがあるが、それにもまして、労働力の確保という切実な課題がある。
4.
さらに、合格後の定着は7割弱であり、3割以上は離日(=出身国への帰国)や職場からの離脱などの問題を抱えている。合格後の定着を7割としても、来日総
数から推計しても(600x0.7/4,000x100=)10.5%となり、看護・介護福祉の専門職の移民労働者の支援制度および労働経済学という観点
から言えば、非常のパフォーマンスの悪い制度のままであり、今後の改善が求められる。
5.
外国人労働者が、日本に中期的あるいは長期的に滞在して看護・介護福祉の専門職として定着することは、労働供給の観点からみて好ましいことであるが、それ
は労働者の人権や良好な労働条件を満たしてこそ、社会と個人の間の関係におけるウィン=ウィン関係が確保できる。これまでも課題であったが、今後も、改善
がもとめられる点であるところの、1)良好な研修体制の維持と資格制度の合格率の向上、2)合格後の労働条件のみならず日本人労働者との格差解消、3)研
修中ならびに修了後の円滑な定着の促進、4)専門職外国人労働者の労働者の権利擁護の進展、が課題となるであろう。
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研究資金の出典
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