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移民の経済人類学研究ガイド

Study guide: Economics of International Immigration


池田光穂

このページは、国際労働移民を中心にその経済人類学的側面について考察するページである。

「この世に生きていて私がもっているとわかる権利はひとつだけ。他人に人間らしいふるまいを 求める権利である」——フランツ・ファノン(1952)

「勝てばドイツ人だが負ければ移民」。ドイツの名門 サッカークラブ・アーセナルに所属するメスト・エジル(29)は2018年7月22日、ドイツ代表からの引退を表明したが、その声明の理由にあるのがこの 発言である。エジルはトルコ系の移民出身だが、その直前のW杯前にトルコの再選されたレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領と写真をとっていることだ (トルコとの全体主義化と、反ドイツ姿勢を隠さないエルドアンに対するドイツ全体の反感というものがある)。

ベンジャミン・パウエル編『移民の経済学』東洋経済 新報社、2016年というのは、コンパクトですが、なかなかわかりやすくて面白い本です。北米移民の経済学のレビューで構成されています。結論としては、 労働者の国際移動は、デメリットよりもメリットのほうが凌駕するので、負の側面を(鍵穴的パッチをあてる政策ではなく)総合的な観点からコントロールする のが一番のベストだという主張です。僕は、これはなかなかいけているし、このような説得の方法は日本の政策担当者にも耳を貸してくれる説明戦略だと思いま した。これに質的な情報が入れば、さまざまな実践報告書の最終案にも使えそうな構成になっています。

さてラッセル・セージ財団(Russell Sage Foundation)が"Race, Ethnicity, and Immigration" に関する研究助成をおこなっています(2018年7月20日現在)。このような研究助成に関する応募要項のなかに、どのような社会状況のなかで、これらの 研究は必要であるのかきちんと書かれています。このような情報提供は、スポンサーと助成申請する人の〈価値観〉のすり合わせにとても重要な情報です。皆さ んの参考にしましょう!

「私がコーネル大学に戻ってすぐ、エリックはスロー ン財団を退任して、同じニューヨークにあるラッセル・セージ財団の会長に就任した。同財団は、貧困や移民といった重要な社会政策問題に取り組むことを使命 に掲げており、行動経済学は中心的な課題として位置づけられていたわけではなかったが、理事会はエリックを三顧の礼で迎え、行動経済学への支援を継続する ことを認めた。当然ながら、新しい学問分野をどう育てるかということについては、エリックも私もさっぱり見当がつかなかったが、2人でない知恵をがんばっ て振り絞った」——リチャード・セイラー『行動経済学の逆襲』254ページ

★大前提

「移民の権利 すべての人びとと同様に、移民の人たちには、生きる権利、恣意的な拘禁や拷問を受けない権利、適切な生活水準の権利があります。 移住労働者の権利に特に言及した国際法基準では、国 際労働機関(ILO)条約があります。 2003年7月1日、す べての移住労働者とその家族の権利保護に関する条約が発効しました」難 民と移民(アムネスティ・インターナショナル)


■基礎資料の提示

移民の経済学 / ベンジャミン・パウエル編 ; 佐藤綾野, 鈴木久美, 中田勇人訳,東洋経済新報社 (2016).原著は、The economics of immigration : market-based approaches, social science, and public policy,edited by Benjamin Powell.  Oxford University Press c2015

  • 01:序論(Benjamin Powell):01-Economics_Immigre_2016-JAP.pdf
  • 02:国際労働移動の経済効果(Peter T. Leeson and Zachary Gochenour)The Economic Effects of International Labor Mobility:02-Economics_Immigre_2016-JAP-2.pdf
  • 03:移民の財政への影響(Alex Nowrasteh)The Fiscal Impact of Immigration:03-Economics_Immigre_2016-JAP-3.pdf
  • 04:アメリカ移民の市民的・文化的同化政策(Jacob Vigdor)The Civic and Cultural Assimilation of Immigrants to the United States:04-Economics_Immigre_2016-JAP-4.pdf
  • 05:雇用ビザの国際比較(Alexandre Padilla and Nicolas Cachanosky)Employment Visas: An International Comparison:05-Economics_Immigre_2016-JAP-5.pdf
  • 06:穏当な移民改革(Richard K. Vedder)Immigration Reform: A Modest Proposal:06-Economics_Immigre_2016-JAP-6.pdf
  • 07:移民の将来:自由化と同化への道(Herbert London)Immigration's Future: A Pathway to Legalization and Assimilation:07-Economics_Immigre_2016-JAP-7.pdf
  • 08:国境の開放化に関する急進的な見解(Bryan Caplan and Vipul Naik)A Radical Case for Open Borders:08-Economics_Immigre_2016-JAP-8.pdf
  • 09:結論:代替的な政策視点(Benjamin Powell)Conclusion: Alternative Policy Perspectives:09-Economics_Immigre_2016-JAP-9.pdf
  • 関連リンク

  • 移民の経済学 / ベンジャミン・パウエル編 ; 佐藤綾野, 鈴木久美, 中田勇人訳,東洋経済新報社 (2016)原著は、The economics of immigration : market-based approaches, social science, and public policy,edited by Benjamin Powell.  Oxford University Press c2015
  • Allan Burns, Migration http://www.clas.ufl.edu/users/afburns/Mex03/migration_files/frame.htm(June 30, 2003)
  • よくわかる国際移民 : グローバル化の人間的側面 / ブライアン・キーリー著 ; OECD編 ; 濱田久美子訳, 明石書店、2010年
  • International Migration, Outlook 2014. Special Focus: Mobilising Migrants' Skills for Economic Success, OECD, 2014
  • Ikeda, M., Challenging to Our low-birth-rate-hyper-aging-society: Japanese government, health sectors, and citizen. 2015
  • ■基本用語集

  • EPA:済連携協定(EPA:Economic Partnership Agreement)
  • 比較優位(ひかく ゆうい)
  • エコロジカル・ フットプリント
  • 理論的課題

  • 移動と定着という図式的理解に終わらないこと
  • 多文化主義
  • ウィル・キムリッカの「多文化主義」講義
  • 多文化主義批判について考える
  • 学習用リンク集

  • コンフリクトと移民:新しい研究の射程
  • 〈移民・難民・人類学者〉という表現が、それから漏れる奇妙な現象を周縁化す る
  • 国家のもつ意味・国際移民
  • 国際労働移民のアポリア
  • 移民・難民・人類学者:グローバリゼーションとグアテマラ
  • 移民討議班レポート
  • コヨーテとミグラの間で:移民にとっての心理的脅威
  • 2つのフィールド・ワーカー:マヤの農業移民労働者/伝統的人類学者
  • ASEAN経済共同体(AEC)・EPA状況下の医療保健人材 の東アジア域内移動について
  • 経済と倫理
  • トランスナショナリティを考える
  • 先住民・エスニックマイノリティのディアスポラとグローバリゼーション
  • 忘れる人のための国際関係論:教科書編

  • 政治経済問題としての移民労働

  • 医療労働市場と医療労働者の国際移動に関する研究
  • EPAにもとづく看護師・介護福祉士候補者の受け入れ制度について考える
  • 文化的問題としての移民や移動

  • 方法としてのアジア:脱帝国主義化とディアスポラ
  • この研究のスポンサー

  • ASEAN 経済統 合・EPA下の医療保健人材の東アジア域内移動と職場適応の実証研究(代表者:奥島美夏 先生)
  • 文献