じめによ んでください

フィールドワーク研究の倫理:解説編

The Elemental Form of fieldworkers' Ethics, 2099

解説:池田光穂

文化人類学者文化相対主義をとるので、そこには研究倫理など ないというのは、2010年以降で平気な顔で主張するのは、暴論でありナンセンスでありとして非常識な見解です。しかし、他方で、文化人類学者は、その方 法論的な 基盤として、認識論的な文化相対主義という、ある固有の文化における倫理的態度すら相 対化して考えるという不思議な習慣をもっていますので、普遍的な研究 倫理を、自分自身の理解なくして受容することに頑なに拒否をする職業的性格をもつことも事実です。しかしながら、「『研究』という言葉自体が、先住民の言語の中で最も汚れた言葉の一つである」(リンダ・トヒワイ・スミス 1999)と調査対象になってきたフィールドの人々が声をあげる時、そんな懐疑的な考え方を持ち続けるのは、思慮深い調査者とは決して言えないでしょう(→「フィールドワーク研究の倫理」)。

ここでは、倫理的存在者として研究者の研 究倫理を、文化人類学と文化人類学が もっとも得意とする異文化の社会を中心としたフィールドワークにおいて、どのような倫理 項目について考えないとならないのか、その学問の成り立ちにまで、遡って考えて見たいと思います。

★先住民との[研究倫理と交錯する]調査方法 (Indigenous research methods)

Indigenous research methods

Prioritizing Indigenous research methodologies is also essential in decolonizing research practices and generating knowledge that serves Indigenous communities. Shawn Wilson's book "Research is Ceremony: Indigenous Research Methods" promotes the use of Indigenous research approaches rooted in Indigenous protocols, ethics, and knowledge systems.[30] It emphasizes community engagement, reciprocity, and the affirmation of Indigenous perspectives and voices. Similarly, Linda Tuhiwai Smith highlights the importance of centering Indigenous worldviews and methodologies while respecting cultural protocols, including obtaining free, prior, and informed consent.[31]
先住民との研究方法(=先住民じしんの調査方法)

先住民の研究方法を優先することは、研究の実践を脱植民地化し、先住民のコミュニティに役立つ知識を生み出す上でも不可欠である。 ショーン・ウィルソンの 著書『Research is Ceremony: Indigenous Research Methods [pdf] by Shawn Wilson, 2008』は、先住民の儀式、倫理、知識体系に根ざした先住民の研究アプローチの使用を推進している。[30] この本では、コミュニティの関与、相互性、先住民の視点や声の肯定が強調されている。 同様に、リンダ・トゥヒワイ・スミスは、自由意思による事前の十分な 説明に基づく同意=インフォームド・コンセント(free, prior, and informed consent)の取得を含む文化的な儀式を尊重しながら、先住民の世界観と方法論を重視することの重要性を強調している。[31]
NAISA also promotes Indigenous research methods through various initiatives including organizing research methodology workshops, developing Indigenous research ethics guidelines, and providing platforms for sharing Indigenous knowledge and research findings. They also support Indigenous researchers through mentorship programs, networking opportunities, and research funding emphasizing collaboration with Indigenous communities. They also encourage community-driven research that respects cultural protocols and community ownership.[29] NAISA(Native American and Indigenous Studies Association)も、研究方法ワークショップの開催、先住民研究倫理 ガイドラインの策定、先住民の知識や研究結果を共有するためのプラットフォームの提供など、 さまざまな取り組みを通じて先住民研究法を推進している。また、先住民コミュニティとの協力を重視した指導プログラム、ネットワーキングの機会、研究資金 提供を通じて、先住民研究者を支援している。さらに、文化的な慣習やコミュニティの所有権を尊重したコミュニティ主導の研究も奨励している。[29]
https://en.wikipedia.org/wiki/Indigenous_decolonization
先住民の脱植民地化︎」より

■重要なアドバイス(助言):

フィールドワーク系の分野で科学研究費補助金を申請する方は、 所属する学会ならびに関 連する学会の各種「倫理要綱」「倫理コード」「倫理規範」などのURLなどを記載し、まず、自分の属する学協会領域での倫理規範に準拠して調査をおこなう 旨をのべ、科学研究費補助金が採択された場合には、代表者あるいは研究協力者の属する所属期間での「研究倫理申請」ないしは「研究倫理審査」を受ける予定 である旨の言及を必ずおこなってください。またe-APRINなどの研究倫理に関するe-learningなどの講習を受けた/受ける予定である旨も忘れ ずに記載しましょう。

・それが無き場合は、研究の実現可能性(フィージビリティ)を評価をしても、研究倫理に関する配慮が足らないという評価を、研究計画書 全体に受ける可能性があります。

・ご自身が倫理的に高潔であることも重要ですが、それよりもなお、フィールド調査は、社会的な空間(公共圏)で行われるため に、自分たちの研究における研究公正(=倫理規範をまもり正しく調査研究をおこなうこと)について、構造的な配慮が、研究計画書の中に示されていることが 重要です。


フィールドワーク研究の倫理

【1】フィールドワーク研究の倫理
スライドをクリックしますと単独で表示されます!(以下同様です)
現在の私の所属は、 大阪大学CO(こ)デザインセンターです。
現在の連絡先のメールアドレスは、


【2】目次
  • ・フィールドワーク
  • ・インフォーマント
  • ・インフォーマントと情報的価値
  • ・狭義のインフォーマント
  • ・インフォーマントの「搾取」について
  • ・インタビュー
  • ・インタビューの倫理性
  • ・フィールドワークの倫理(壱・弐・参)
  • ・文献
  • ・フィールドワーク倫理を考える要点
  • ・課題

【3】 フィールドワーク

フィールドワーク(field work)とは、「研究対象となっている人びとと共に生活をしたり、そのような人びと[=調査対象者であるインフォーマント]と対話したり、インタビュー をしたりする社会調査活動のこと」である。

文化人類学者は、フィールドワークにもとづいて、人びとの生活に関する記述であり同時にその人類学的考察である記録(=質的情報や量的 情報 で構成される)である民族誌を著します。


【4】インフォーマント

インフォーマント(informant)とは、調査において人類学者に情報(information)を提供してくれる人のことです。

ジャーナリズムの用語で言うと、取材を受ける人、情報提供者、被調査者など、さまざまな言い換えが可能ですが、人類学は狭義のジャーナ リズ ムではないので、そのようには考えません。また、軍事作戦におけるインフォーマントは、「現地の情報に精通し、またスパイにもなる民間の協力者」(内部通 報者)ということになるかもしれなませんし、そのように使われています。

インフォーマントとは?

【5】インフォーマントと情報的価値

インフォーマントは、情報論的にはデータそのものであり、調査者はインタービューを通して、インフォーマントの情報すなわち地域や文化 の情 報を引き出すことになりますが、これもまた人類学の理論におけるインフォーマントのことではありません。

では、インフォーマントとは誰のことか

人類学におけるインフォーマントは、調査のプロセスで接触するすべての人々のことと考えてもらってもよいでしょう。現地の人と出会い、 話し 合うことを通した自分の活動を内省的にみれば、人類学者自身もまた相手にとってインフォーマントとなりうる資格をもっています。したがって、人類学の調査 では、あらゆる人がインフォーマントのことになります。


【6】 狭義(きょうぎ)のインフォーマ ント

他方、人類学では同時にインフォーマントを[今度は逆に]狭く厳密に捉えることがあります。この場合のインフォーマントは、人類学者の調査 の趣旨を理解してくれ、人類学者の対話の相手になる、同僚または先生のことでもあります。この狭義のインフォーマントは、人類学の著名な調査には人類学者 の有能な助手となるだけでなく、人類学者の導きの糸たる先生にもなり、人類学者の名声と共に人類学の歴史に名を残す人もいます。

【7】インフォーマントの「搾取(さく しゅ)」について

よく人類学という学問的枠組みに対する政治的批判において、人類学者がインフォーマントを知的あるいは経済的に「搾取」するイメージで語ら れることがありますが、先のように先生(=インフォーマント)と生徒(=人類学者)の関係のようにフィールドワークのプロセスにおいてその地位がしばしば 逆転することがあったり、長く友愛の関係で結ばれることが〈経験的事実〉としてありますので、人類学者がインフォーマントを搾取するというイメージは(全 くそのような危険性がないとは言えないものの)不適切であることは、強調してもよいと思います。

【8】 インタビュー

インタビューとは、対話や問答を通して人にものを聴く・聞くことである。

人類学的インタビューとは、人類学者や人類学を勉強する人たちが、インフォーマントとよばれる調査協力者に対して、人類学調査に関わる さま ざまなものを聞くことである。


【9】 インタビューの倫理性

したがって、調査者は、その研究の目的のためにさまざまなインタビューをおこなうが、その方法は多様なものがある。また、友人との日常 の会 話から行政や司法の場面における査問まで、それらの行為には調査者の倫理性が伴うことも忘れてはならない。

また、通常、インタビューは対面調査でおこなうものをさすが、コミュニケーション技術の発達などにより、電話や電子メールなどでインタ ビューに準じたものが行われることがある。これらの手続きや倫理に関する事象も、対面調査で行われるものに準拠した扱いでおこなわれるべきである。


【10】フィールドワークの倫理・壱

人間を対象にする調査研究は、根元的に人体実験*的性質をまぬがれえない。

そのために、調査研究において、調査する人間が調査される人間の尊厳を傷つけたり、される側の資源(人体の一部あるいはその隠喩[例: 知 識])をする側が搾取するという事態がおこりうる。

調査研究の倫理について学ぶ


【11】フィールドワークの倫理・弐
このような事態は、研究者じしんが道徳的であるか、よい人間であるかというとは関係なしに、行為が社会的にどのように意味づけられるかに よって、構造的に決定される性質のものである。調査者の倫理は、その人の内面を規定するものではなく、その人がどのような手続きをふんで調査をおこなおう とするのか、おこなっているのか、おこなったのか、という観点からきめられる。

【12】フィールドワークの倫理・参

したがって、調査者は調査をはじめる前に、その調査が、人間の倫理にかなっているか、調査をおこなう正当性をもちうるか、研究がもたら す社 会的影響力等について責任を負うであろうことに、十分な配慮をもたなければならない。

反倫理行為は構造的に決定されるために、倫理の学習は、さまざまなケースを通して学ばれる必要がある。


【13】文献
  • 安渓遊地、1991、「される側の声——聞き書き・調査地被害」『民族学研究』第56巻3号、pp.320-326.
  • 宮本常一、1983、「調査地被害」『宮本常一著作集』第31巻、未来社.
  • 山口昌男、1979、「調査する者の眼——人類学批判の批判——」『新編人類学的思考』pp.43-71、筑摩書房.(この論文 は本 多勝一「調査される者の眼——人類学入門以前」『思想の科学』1970年6月号への反論である)
  • 本多勝一「調査される者の眼」 『思想の科学』1970年6月号、Pp.9-18, 1970年

【14】フィールドワーク倫理を考える要 点
・誰のための、どんな研究か? ただしどんな研究でも「言ったこと」と「実践すること」には齟齬が不可避的に生じる。
・現場の人びとの個別情報には、大きくわけて(1)秘密や親密、(2)プライバシーや個人情報、(3)知的財産や個人の威信を維持するた めの 利益情報、があり、調査にはこれらの3つの性質に関して契約上の責任をもつ。
・説明責任(accountability)と応答責任(responsibility)
・倫理は社会的かつ歴史的に相対的だが、個人の責任はそのような相対化を超えて作働する宿命をもつことも理解すべし!
【応用問題】問い:すばらしい学生の答案やレポートは無断で引用できる か?
山口昌男と本多勝一 論争の〈深層〉について

【15】課 題
皆さんは、これからチームを組んでハナモゲラ共和国のランゲルハンス諸島の住民に対してフィードワークをおこなおうとしてます。この住民の なかに成人後に常染色体〈異常〉により「未来の予知能力」を得ることができる人たちが含まれることが明らかになったからです。この予知能力遺伝子のDNA サンプルは口腔内の粘膜を取ることで分かりますが、正確に同定するためには、資料をすべて日本に持ち帰る必要があります(続く)

【16】課 題(続き)

ハナモゲラ国立大学の研究チームも、どうもこのことに気付き我々の研究に大いなる関心をもっているようです。もちろんこの遺伝子異常は 軍事 技術にも応用可能ですので、世界の国防省や軍事産業も関心をもっています。

【課題】あなたは、日本を出発する前から帰国するまでに、どのような倫理上の課題を抱えることになるでしょう。1.出発前、2.出発後 現地 到着後、3.住民への調査中、4.調査終了後の出国前、5.帰国後、という5つの研究のフェーズにわけて、課題を列挙し、それに対する適切な対処法を創案 してください。

当日配布したワークシートの構成は下記のとおりです。



ジャン=ミッシェル・アダンは次のように言います。「語るというのは、 ごくありふれた、日常的でかつ広 く行きわたった形の行為であるだけに、物語とは何かと問う必要はないと思われるかもしれない。だが実際 には、物語行為一般について問うことは、日常の経験を言葉に置き換える仕方について考えることである。それはまた物語行為に頼ることのできる様々な言説に ついて考えることである」――ジャン=ミッシェル・アダン『物語論』末松・佐藤訳、Pp.15-16、白水社、2004[1999]。語り概念の拡張、と りわけ日本語の「物語」という 語との関連において(→「ミハイ ル・バフチン『ドストエフスキー の創作の問題』1929年,ノート」)

日本語

・調査参加への依頼・同意書(先住民/先住民族との研究の雛形の実例:hinagata_GSIND_2018.pdf

英語

・Request for participation in Research and Survey : Consent form, participate_informed_consent2.pdf with password





■クレジット:フィールドワーク研究の倫 理 (コミュニケーションデザイン科目2010「研究倫理」)池田光穂

練習問題(サイト内)

練習問題(サイト外→映像資料つき)

リンク

文献

Center for the Study of CO*Design, 2010-2099


Copyleft, CC, Mitzub'ixi Quq Chi'j, 1996-2099

Copyleft, CC, Mitzub'ixi Quq Chi'j, 1996-2099