患者と国家
Patients and their State: a critical
inquiry, 1989-2099
目次 1.ファシズムとファシズムへの抵抗を想起すること [散文集]
2.ファシズムの問題構成 3.患者と国家 4.近代医療批判の系譜
5.近代=医療の終焉
6.結論——医療をファシズムとしてみる唯一の効用 おまけ: | 【練習問題】患者と国家の関係を整理する 1)公的な健康保険制度は好ましいものなのか? 2)公的な社会福祉制度は好ましいものなのか? 3)公的な健康保険制度や社会福祉制度のここがよい/ここが悪い 4)がん研究を推進すれば人類社会はより幸せに/よりよくなるのか? 5)遺伝子の振る舞いについて、わからないことだらけなのに、遺伝子診断の結果を真に受けるべきか? 6)確実に遺伝することがわかっている予後のよくない遺伝病は(費用は安価であるが)「断種」したほうがいいのか?それとも(非常に高価な)「遺伝子の改造」をめざすべきなのか? 7)ある特定の労働環境での勤労と特定の疾患(がん)の発症が明らかに因果関係のある、その事後的な補償の責任は、雇用者にあるのか、それとも労働環境の監督庁や政府にあるのか? 8)飲酒や薬物利用を含む個人の食生活や嗜好品の利用に、職場や政府は、どの程度まで干渉(=健康相談や治療など)したり、介入することができるのか? 9)長期のタバコや飲酒の習慣には明らかに健康に有害な結果が証明されているのに、特定の企業が(政府の許可のもとで)タバコや酒を堂々と売りつけて営利活動を続けることができるのか? 10)個人の命や生活(ともにライフ)に干渉されたくない人に、政府が自発的な安楽死や自殺というものを禁止する権限があるのか? |
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※この内容(レジュメ)は、僕が大阪大学医学研究科博士課程在学中だった1989年当時(たぶん?!)、東大PRC(患者の権利委 員会)の本田勝紀医師と水田哲郎医師と弘中惇一郎弁護士らの呼びかけで、確か箱根で研究合宿をした時にいただいた「宿題」で、その頃、本田さんから時々馬 鹿みたいにながい長電話をいただいて「君は中川[米造]さんの弟子だから、これぐらいのことはまとめられるだろう!」と喝を入れられて1ヶ月ほど考えてま とめたものだと思う。その後、ウェブページを書くことを覚えて、最初に昔のワープロの原稿を、テキストファイルにして、以前の職場のPCサーバーから公開 したはじめのものが原型になっている。その後、その都度改訂してきたものである。それゆえ、未熟だが、自分はこの本田さんの後押しによって、今でも近代西 洋医学の「成果」を疑い、その成果がつねに「患者」を犠牲にしてきたことの思いを、新たにするのである。このページは旧版からの移行中です。
「病気四年間の社会の冷胆、圧迫にはまことに泣いた、親族が少く愛と言うものの僕の身にとって少いにも泣いた、社会もすこしみよりのないもの結
核患者に同情すべきだ、実際弱いのにはこりた、今度は強い強い人に生まれてこよう、実際僕も不幸な人生だった、今度は幸福に生まれてこよう」都井睦雄の遺
書より——都井睦雄(Mutsuo Toi, 1917-1938)
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1.ファシズムとファシズムへの抵抗を想起すること【散文】
・『日本の医療を告発する』1972年
「日本の医療は『差別の地平』と、『収奪の地平』そして『破壊の地平』のいずれにおいても、眼を覆うばかりの荒廃の姿をあらわにしてき ている。そして悲劇的なことには、それは日増しに加速度を増し、止めどもなく私たちの生活の深層に及んでゆく必然性をもっていることである。 たとえば、四日市ぜんそくの患者さんたちは、公害病の認定によって、貪欲あくことのない医療資本の手に譲り渡され、濁りきった空気の中で薬づけにされ、 突然死んでゆく。公害患者は二度殺される!」(p.i)〜高橋晄正
「日本の医療は破産に瀕している。それは日本の自然と社会が破産していることの医療の場における現れなのだ。そして医療は、私たちの社 会がかかえている矛盾に対する告発の原点にあるのだ。それを矛盾のどん底にある生存の物質的破壊の現場から告発し、経済的収奪と差別・抑圧・管理という現 代社会への基本構造へと迫ろうとするのだ。
「”自分は加害者だ””○○に学ぼう”などという医療を担う人びとの思い上がりの余地はもはやない。あるのはただ”自分もいつかはやら れる”という「加害者即被害者」という厳然たる事実だけである。」(p.ii)〜高橋晄正
「医療の歴史とは権力支配の歴史であり、差別と分断と収容の歴史であった。それは現代において変わりはない」(p.27)
「医療行為が資本制社会において生産的労働であるのは、労働力を修繕して再度賃労働として可能ならしむことによる。つまり、私的所有= 私的人間間の私的契約による貨幣を媒介とした所有をもとに、生産と所有の分離によって、医療行為は医療労働(賃労働)として人間の生命活動としてではな く、価値増殖過程としての商品生産(労働力再生産)へと歪められてしまう。」(p.28)
・胎児性水俣病の少女と原田正純の対話(→「研究史で追いかける水俣病事件」)
土本監督の映画の中の少女「自分がなにをしていいのかわからない……」 当時なら、国家や企業に踏みにじられた水俣病患者の実存や根源的な悲哀を表象する映像として理解され、観衆はチッソや国家に深い怒りを憶えたかもしれな い。
【註】昭和四五年(一九七 〇)、製作高木隆太郎、監督土本典昭、撮影大津幸四郎らのスタ ッフで撮影開始し、一〇年にわたり次々と水俣病問題を撮り続 け、十数本の作品を発表した。主な作品は、患者家族の生活の内 面から水俣病を描き出した傑作「水俣−患者さんとその世界」 (昭和四六年)がある[熊本大百科事典より]
四〇年後の私には、そうは思えない。少女を公害の被害者としてアイデンティティを造り上げながら、同時に常人として生きられないこと を前提に、それでもなお(彼らには得られない権利である)未来を語らせるというジレンマが彼女を泣かせたのではないか。
もちろん、この解釈は事実に即したものではなく、あくまでも水俣病を<観賞>の対象として自己の問題に惹きつけて感情移入した印象批 判だ。しかし印象批判でないような批判などそもそも存在するのか。
・虐殺や虐待を記憶する意味(→「国家暴力(State Terror)研究」)
従軍慰安婦問題、スミソニアンの原爆展、ナチスのユダヤ人虐殺、原爆の投下等々。
自分たちが二度とそのような過ちをくり返さないために<記憶>する義務が我々にあるという。悲惨でない社会を維持し続けるためには<悲 惨>さを学び続けなければならないというのは皮肉である。そして<悲惨>さは歴史によって相対化されるので、アフリカやボスニアあたりから定期的に供給さ れる必要ある。
記憶を教訓として受け取る人達は、記憶を人間主義化し、また<想像できないようなことを想像しつづけろ>とその強迫の強度は増すばかり である。他方、記憶を汚らわしいものとして拒絶する人達は、そのような<事実>を虚構化し、自分たちの<やさしさ>の源泉までも摘んでしまうと危惧する。
リベラルの十八番であった教科書裁判は、今や保守の戦術にとって代わりつつある。自由主義的史観にとって国家は抑圧機構ではなく、自虐 的なアイデンティティの製造装置だと非難されるのである。
・医療の危機
医療の危機というのものは、医療がうまくいかないから登場するものではなく、医療の誕生と同時に生まれたものであることを我々は忘れて しまいがちだ。煽動家は、今が医療の危機の頂点であることを強調することに腐心する。だが煽動家の運命は悲しい。危機をそのアクチュアリティとしてとらえ るのではなく、事後的な説明として取り扱うからである。だからその関心の眼を、個々の臨床における目に見えない暴力ではなく、国家レベルでの薬害や臓器移 植における「文化」の差異におくが、それが日常の実践の延長であることが想像ができない。
・患者解放運動の危機
医療解放運動の危機というのは、たんに患者解放のイデオロギーが枯渇したからというよりも、批判したい対象=近代医療システムそのも のが変化したという事情にもよるのではなかろうか。近代医療は患者解放運動の時代のようなシステムではなく、また解放しようとした当の主体は、その当時想 起していた主体ではもはやなくなった。つまり囚人や奴隷あるいはプロレタリア被抑圧者としての患者ではなく、もはや消費者としての患者になった(なりさ がった?)。それを患者主体の形成に失敗したという見方は当然患者解放の運動が失敗したと見てしまうし、また患者も革命的主体たる<階級意識を自覚した患 者>ではなく<プチブルジョア化した患者>になった(なりさがった/あがった)。
・脳死反対の論理(→「現代不老不死論——脳死・臓器移 植問題を考える(1993)」)
脳死患者の人権や生きているという主張は、脳死に対する合理的な反論というよりも、脳死を前提とした臓器移植が、<不用な人間(廃 物)の有効利用である>ということへの人間主義的な反感にもとづくものなのだ。この反感は、安楽死による精神障害者等の抹殺への反対と同種のものである。 (→「和田寿郎移植事件:生命倫理と医学的判断の検 証」)
・東大PRC:医療における患者の人権を守る最後の挑戦
東大PRCの歴史を遡れば、一言でいうと<加害者非難>の宣教を日本でもっとも過激に追求してきたグループであった。加害者非難とい う政治的デモンストレーションを正当化するのが科学主義と人権思想である。また彼らの歴史観は進歩史観であり、その社会認識は、非科学的・封建的な医療体 制は患者の人権を抑圧するのみならず搾取しているというものである。
PRCの基本的な戦術は公開質問状であり、これはその当時の学生運動の方法として威力を発揮していた大衆断交と糾弾をより広い社会的 な空間の戦術として拡張させたもので長い間PRCの常套手段となった。公開質問状よりも司法権力を利用しながらより効力を高めようとしたのが刑事告発であ る。
・ないものを想像する——近代医療批判
自己決定権の虚構性「自殺する権利」(フーコー、内田隆三)
安全性にみる社会排除の思想(フーコー)
公衆衛生や社会福祉の管理思想
近代の恐怖症としての国家社会主義の地球化(これは語義矛盾だ)
知識人=評論家のパラサイト機能(臓器植法案を阻止せずに、その論評で稿料を稼ぐ)とそれに対する反動としての自由主義史観的実践主 義
・メタファーからの自由?(→「隠喩・換喩・提喩」)
<疾病>になるということが社会的排除の理由になるという論理は<健康>もまたその理由として立派に通用するということなのだろうか。 病気が社会的排除の原因となることは、S・ソンタグがいうところの<病気が喚起する隠喩>が社会的な諸力の原因となるという通説によってよく知られるとこ ろとなった。
・価値「不」自由の学問(→「研究公正」)
医療社会学者、社会疫学者、マルクス主義批判理論にたつ研究者がT・マッケオンの説——近代医療で有効性が確かめられているとみられ ている化学療法やワクチンの普及の以前からそれらを必要とする病気の頻度は当時すでに減少傾向にあった——を引き合いに出すのは、近代医療の必要以上の持 ち上げ(あるいは神話)への対抗言説としてこの証拠を引き合いに出すのである。あるいは、特定の社会空間における疾病制圧とは、特定の病因への働きかけが 効果を奏するという特定病因論では理解不能であり、環境整備や栄養状態の改善などの社会的要因によって決まるという説をその引用文献中に指示するという機 能をもっている。これらは常識や神話への批判や抵抗という行為をおこなっていることになる。
だからそれらの営為の中に、近代医療への批判的視座を確保するという姿勢をゼロにした価値自由たる態度をみつけることは不可能であ る。(ある見方をとることは、ある対象に対する関与を意味しているわけだから厳密に言うと価値自由はある社会的な態度の理想にはなりえるが現実には不可能 である)。
・サービスとしての医療の顛末
医療の権力モデルの批判の後に登場したのは、どうしようもない敗北主義である。例えば<よい患者になる>運動であり、医療をサービス としてみる医療=社会奉仕論である。前者は、医療の枠組みがもつ問題性を不問にし、医療者と草の根レベルで対話し無知な患者でありつづける不利益を自らが 権利の受益者として目ざめることで、自己の救済を願う社会運動である。後者は、患者が不利益を被っている現状認識まではするが、医療がサービスになるため の社会的な前提や具体的なプログラムを提示することなく、医療従事者の意識が社会の変革に結びつくという発想をおこなう。
・自由からの逃避(→「「考えることの自由」と「経験的事実の認 定経験」について」)
自由から逃避すればそこには全体主義の誘惑が待っている。さりとて自由を過度に謳歌すると今度は個人の自主性への神話を信じ自己決定 中心主義に陥りレーガンやサッチャーのような新右翼的な状況に組し易くなる。
・福祉国家の語源(→「社会福祉とネオリベラリズム政策」)
「「福祉国家」という用語自体はテンプル大司教が、戦時中、ナチス・ドイツのような権力国家[power state][または戦争国家warfare state]と対比しつつ、連合国の戦後の再建目標、および公約にすべきものとして福祉国家[welfare state]をかかげたことに由来するとされている」(ピアソン『曲がり角にきた福祉国家』未来社、p.197——ただしピアソンは福祉国家の編制は戦前 からあり戦後に急激に変化しないという理由でこれには否定的で、実際には1880年代にまで遡るという。)
■ポストハンセン病(あるいは「後期(旧)癩病対策」)について(→「ハンセン病と癩(らい)を考えるページ」)
「長島愛生園から——ハンセン病元患者の[引用者]
——知人が見えて、鳥取県のイタリア料理店でスパゲティを食べながら話したことがある。その時知人たちは、2025年に日本のらい者は500人となり、ほ
ぼ消滅すると言った。そして、じぶんたちは今、その消え方を考えていると言った。/『東京の多磨全生園は、お礼に森を残そうと考えている。長島は、老人施
設を残すことを検討している。迷惑をかけるつもりはなかったけど、迷惑をかけたのかも知れない。ここまで生きれなかったのかもしれないのに生き続けること
ができたのは、療養所のおかげかもしれない。そう思うと感謝しないといけないとも思う。感謝の気持ちをどういう形で表し、どう残そうかと、考えているので
すよ』/故郷から消された人たちが、消した人たちにむかって銃弾ではなく感謝を放つ
時、消した側に立つ人たちはいったいどんな表現をすればいいのだろう」(徳永進、1991年版あとがき)——徳永進『隔離』岩波現代文庫
版、301-302ページ、2001年。
2.ファシズムの問題構成【ファシズムという枠組】(→「全体主義・入門」「グローバル化する近代医療と民族医学の再検討」)
私がファシズムという用語を好んで使うのは、その語感が呼び起こす分析的な想像力を持つからで、歴史学や社会学の用語としてのそれで はない。私が、医療はファシズムであるとか、ファシストどもが病院を徘徊しているという表現を使う場合は、それらの社会科学の分析概念として厳密に用語を 使い回ししているのではなく、それを聞く人の感情を逆撫でするために使う戦略的用語であることを了解してほしい。
かと言って、感情を逆撫でする想像力豊かなこの用語が専門家によってどのように使われてきたのか、ファシズムの研究屋の基本的理解が どのようなものであるか、について知り、感情を逆撫ですることの有効性と同時にその用語仕様の致死量について正確に把握しておくことは、概念にもとづく議 論の<健全さ>の維持には不可欠であろう。
余談だが、『全体主義言語』という本を著したJ=P・ファイユによるとファシズムあるいは全体主義(そしてアバンギャルドもまた) は、そのような体制のもとで自己正当化の哲学をもはや必要としない言語、例えば「国家社会主義ドイツ労働者党」など中身そのものよりも新造語のもつ想像喚 起性に力点のおかれた言語活動、つまり言語の限界にまで言葉のもつ効果を生み出したというから、私のような用語の濫用はあまり高度に抽象化しないほうが <健全>であることは言う前でもない。
さて、日本におけるファシズム研究の第一人者であった政治学者の山口定はファシズムの思想・運動・体制について次のように述べる(『社会 学事典』弘文堂)。
1.[思想]ファシズムは復古主義ではなく、保守と変革の二面性をもつ。共同体にとっての「敵」の排除、国家と社会の結合による新体 制の提言、社会ダーウィニズムに基づくエリート主義、生存圏という発想にもとづいた帝国主義。
2.[運動]中間層を中心として周辺の分子を結集させ、指導者原理を採用し、暴力の行使を正当化する。
3.[体制]後発帝国主義国家で、体制の定着にともなって急進分子が排除され、テクノクラートと技術的近代化がみられる。
このことから歴史的経験としてのファシズムは、医療のファシズム性を考える上でいくつかの示唆を与える。
1.個人よりも、集団・社会・国家という上位の集合的範疇に価値をおく。
2.ある面で保守的であるが、別の面では革新的な面をもつ。(これは近代合理主義が要求する思想の一貫性に照らせば極めて脅威になる 状態で、ファシズムは「無思想・無責任」の体制であると批判されてきたのは、このことによる)。
3.行動の原理に外部の「敵」を必要とする。これはファシズム国家の好戦性や帝国主義的な拡張政策と連動する。
4.テクノロジーへの偏愛と信頼。これは技術を人間生活の延長としてとらえるのではなく、外在化され(価値中立)操作可能なものとみ る見方である。そしてより重要なことはこのような技術が、社会が組織するエリートによって効率よく運用されたことである。
これだけの特性をもってファシズムと言うならば、ファシズムは近代化 した我々の生活の中で日々感じているということの極端な例に過ぎず、 ファシズムは我々とは無縁の政治体制ではないような感じさえする。我々の日常性の中にファシズム性はあるというのはこういう意味からである。
では現代社会の医療は果たしてファシズム性をもつのだろうか?その列挙した特性に応じて整理してみる。
1.個人よりも集団・社会・国家に価値をおくか?これは日々の診断と治療の過程には登場しない。それを阻止しているのが医療が診療報 酬を基本とする営利事業であり、また国民健康保険制度により営利の源泉を国庫に大きく依存しているからである。他方、国家は医療政策と福祉政策をこの個人 と集団の利益の均衡を調整し、また調整する機能のゆえに大きな権限機能をもっている。医療専門職はそのような構成の上で、専門職の独占と権限の維持をおこ なっている(専門職支配)。
2.医療者の行動には確かに保守的な面と革新的な面がある。しかしその表向きの理由は科学的治療の維持と推進のためにあると表明され るが、ほとんどの業務内様は慣例化されて、実践を正当化するような思想はほとんど見受けられない。あるいは自由主義的な科学のもとでは思想は科学的行為実 践を阻害するものとして退けられている(旧ソ連邦における科学のイデオロギー化への反動)。
3.医療における外部の敵は疾病や障害である。医療者のエネルギーはこの敵の存在のおかげて、医療の進歩を社会に対して正当化できた し、またその知識と組織をつぎ込むことができた(これを否定する人はいまい)。ただし、これが線形的に発展したのか、たまたま偶然であったのかという評価 については科学史家の意見は多様である。
4.医療従事者の集団教育のなかで、今日においてもっとも力点のおかれるのが技術への信仰であり、これが効果を上げていることはその 使徒=信者の多いことでもわかる。技術が中立であるという発想は啓蒙主義時代に、その神学的な解釈が放棄されてから以降であると一般には考えられている。
このような観点から医療のファシズム性をみるという視点は別にとりたてて新しいものではなく、1960年代以降の近代医療の批判的言説と 軌を一にしていることはあきらかである。
1960年代以降の医療批判の最大の成果は、資本主義体制のもとでは医療は患者収奪の機能を十分に果たしているという指摘であった。 患者は「救済される対象」であったものが「被害者」になったのである。医療が社会的な過程のもとで患者という被害者を生産するという指摘は空前絶後のもの である——ナチスの医療者による虐殺は結果的に人体実験を合法化する倫理要綱を生み出しただけである。それは医療過誤における医師個人の問題ではなく、医 療という「構造」が問題にされた点で重要な意義をもつ。ただし、患者を被害者にするのは、近代医療そのものなのか、資本主義下における医療なのか、特定の 社会条件におかれた医療なのかは、それぞれの運動の理念(イデオロギー)にもとづいて異なった見解を示した。(→「人体実験の生命倫理学」「ナチス・ハンティングとインテリジェンス」「石井部隊とランダム化比較試験」)
だが当時の医療批判に従事していたイデオローグ達は、ある特定の国家体制のもとで患者であることは何を意味するのか?、患者とはイン ターナショナルな存在なのか?という議論をおこなうことはなかった。それは当面の闘争目標に追われておざなりにされたのか、そもそもそのような「思弁的」 な議論をおこなう気がなかったのか、いづれにせよ理由は定かではない。
彼らの両親の世代においては医師は自由業に属するものであった。また軍陣医療など特殊な例を除けば組織化された医師は少なく、また医 療の専門分化も著しいものではなかった。しかし当時は医師とは病院という組織のホワイトカラーになりつつあり組織の中での機能という意識(階級意識?)も 芽生えつつあったとみてもおかしくない。しかし国家と専門職集団の結びつきについて、今日にいたるまで目立ったほどの議論がなかったのは何故だろう。
「生産と所有の分離によって、医療行為は医療労働(賃労働)として人間の生命活動としてではなく、価値増殖過程としての商品生産(労 働力再生産)へと歪められてしまう」(高橋晄正)という見解によると、医療行為は本来的には「人間の生命活動」であるが資本主義下によって医療労働へと変 形されてしまったと見る。この命題が示唆することは明白で、資本主義体制が変われば、本来の医療行為すなわち生命活動が取り戻せると考えるのである。しか しこれはユートピア的発想である。あるいは不良少年が「俺がぐれたのは社会が悪いからだ、社会がよければ俺はもっといい子になったはずなのだ」と言ってい るようなものである。より同情的に見れば当時の医療者の疎外の信条を正直に語っているというべきなのだろう。
しかしまったく取り柄がないという訳ではない。医療批判の議論には医療者が患者と連帯の必要性が説かれており、運動面では患者運動へ の関与があげられる。資本主義下での医療者は加害者になりうる——これは患者が被害者とセットで考えなければならない——ので、このジレンマを乗り越える には医療者と患者が連帯し、その構造を変革しなければならないと考えるのだ。つまり、医療者が病院に収容されたりやってくる患者と連帯して運動主体となり 変革、つまり革命への道を歩むという図式である。もちろん医療者は知識と技能を保有しているので患者との階級差は革命の過程の中で克服されなければならな い。これのアナクロ的な農村革命版が若月俊一と佐久病院であることは論をまたない。
このような革命論が都市で失敗し特定の農村で成功したかに見えるのは、その戦術の技量の差ではなく、運動を展開しようとした社会の違 いにすぎない。いづれにせよ、これらの革命論は資本主義を護持する国家に対して打撃を与えることはできなかった。
1970年代末の「先端医療革命」(米本昌平)以降、状況はどうなったのだろうか。患者運動は、医療批判という戦闘性を失ったのだろ うか?、本田さんたちの批判する薬害エイズの患者運動はマスメディアを利用してスケープゴートを探しだし真の薬害問題の原因——犯人を個人に帰する国家と メディアの共犯の構造——を隠蔽しようとしているのだろうか。議論を国家レベルにまで高めた薬害エイズの患者運動は、国家の息の根を止めるのではなく国家 から賠償を勝ち取ることで最終的に堕落したのだろうか。
結局この20年間の「患者と国家」に関する議論の空白は、我々の国家に対する批判力をとことん衰弱させるという代価を支払ったのでは ないだろうか。今一度問い直さねばならないのは、最初から不問にされてきた疑問、すなわち、ある特定の国家体制のもとで患者であることは何を意味するの か?、患者とはインターナショナルな存在なのか?を問い直すことである。
我々の時代にある近代医療批判のもっとも主要な3つの言説を紹介してみよう。 それら主張はもっとも代表的でかつ多くの追随者やエピゴーネンを産出した三人の<健康>の思想家に代表させてみることができる。つまり、ルネ・デュボ ス、イヴァン・イリッチ、そしてミッシェル・フーコーである。
1.ルネ・デュボス——環境・人間・疾病
19世紀末以降のコンタギウム説の理論的帰結としての特定病因論の伝統に対して、ミアスマ説を環境という言葉に再解釈し、かつ環境に 応じる人間の生理学的適応を病気のとの共存という形で和解するという歴史的かつ環境的な人間像を提示した。
特定病因論や病因の完全な排除による健康の達成という見解を批判した。
近代医療を直接の標的として糾弾したのではなく、環境の中の人間という人間観と近代医療に代表される先鋭化された科学主義を退けた が、科学的認識までは放棄しなかった。彼を特徴づけるにもっともふさわしい言葉は「相対論的な悲観主義者」ということであり、文明の傲慢に対する唯一の抵 抗手段が冷徹な相対主義であったことは確かであり、そこに彼の倫理の源泉もみることができる。
「心配のない世界でストレスもひずみもない生活を想像することは心楽しいことかもしれないが、これは怠けものの夢にすぎない。人間生 活は動的プロセスなのに、楽園は静的概念だから、地球上に別の楽園を見いだそうとしても、むだである。……地球は憩いの場所ではない。人間は必ずしも自分 のためではなく。永遠に進んでゆく情緒的、知能的、倫理的発展のために、戦うように選ばれているのだ。危険のまっただなかで伸びてゆくことこそ、魂の法則 であるから、それが人間の宿命なのである。」(『健康という幻想』p.211)
2.イヴァン・イリッチ——iatrogenesis
イリッチの限界は、近代医療の構成を悪者に仕立てるために、<自己決定する患者>像をあまりにも理想化した点にある。イリッチは、医 療をあたかも封建的な領主のごとく人間を収奪する主体ないしはマシンとしてとらえ、人間主体のもとづく啓蒙思想を近代生活の中に根づかせようとした。そし て、それを言説の操作=レトリックによっておこなおうとした。
かつてメタファーの文化的強制力が問題になったときに、我々が病気に割り当てられたメタファーを一層すれば<健康に病気になれる>と 主張したS・ソンタグはイリッチのアメリカの知識人的なバージョンにすぎない。
3.ミッシェル・フーコー——近代思想のニヒリズム
彼の医療論の根幹は、医療者と患者の関係が近代社会における監禁と支配の構造を考える上でもっとも適切なモデルであることに由来す る。
3-1.医学の進歩批判(意味論上の形態の変化ではなく構文上の形態の変化)
3-2.生-権力論(bio-pouvoir):近代社会に固有の権力様式であり、これが<規範>を通して我々の現実を形づくってい るという社会観をもつ。生-権力はさらに2つの作用がある。ひとつは有用性のシステムへの取り込みを前提にした個人の身体を規律訓練をとおして形成する技 でありこれは解剖-政治学(anatomo-politique)とよび、他方は資源と住民の関係について人口を調査しかつ管理する生-政治学(bio- politique)である。
1.医療の主体の終焉
医療者-主人、患者-奴隷と、奴隷解放の論理
論理主義の破綻——社会空間に存在する人間とその病気を論理でとらえることの限界
主体を教育し形成することの限界が見えてきた。と同時に形成の従属=自律性
自己決定の成果と限界
2.医療の資本主義的再編成
2-1:患者を良き方向に導く:行動科学あるいは行動主義(それを正当化するイデオロギーはパターナリズム)
2-2:そのために患者をよく理解する:社会文化的モデル(それを正当化するイデオロギーは対等な関係にもとづく人権主義)
5.1【自己決定の臨界点】——安楽死の「選択」
・死という操作不可能な点を主体的に選択することが、「死を選ぶ権利」として登場した。
・この社会的背景は死が「医療によって不必要に引き延ばされている」という解釈が妥当なものとして多くの人に理解されていることを意味 する。この現象の<常識化>は、医療化によって死が実は不必要に早くやってきているとか、医療は死の多様性を平板にしているという別の解釈とその妥当性の 検討をおこなう可能性の芽を摘んでいる事実を隠蔽する。その結果「医療は人間の命を引き延ばすことが可能な技術」であるという命題を頭から信じるのみなら ず「従ってそのような技術は人間の命を終わらせることも可能な技術である」というより発展した命題も現実味のあるものとして信じてしまう効果をもつ。この ような社会的効果が存在すると信じるにたる証拠として、今日における死の選択の議論のほとんどが(主体的選択の最たるものと考えられる)自殺ではなく、薬 物を使った「安楽死装置あるいは医療者による幇助」によるものであることから、「死を選ぶ権利」とその利用の技術の範囲が密接に関係していることがあげら れる。
・以上のことから「死を選択する」と思われていることが実は医療の技術を利用して「死期を早めることを選択する」ことに他ならならず、 また「医療の拒否」という英雄的な選択が実は「医療への従属」を意味することになる。
・つまり論理的と思われている選択が、ある社会状況が提供する価値観に従っているだけであり、主体的な選択というのは虚構であることが 判明する。
参照ページ:オランダにおける安楽死の研究
(池田光穂)
5.2【社会的決定の臨界点】——リスクと健康の医学(→「リスク」「リスクファク ター」「レギュラトリー・サイエンス」)
・病気の社会防衛論が全体主義的な思考と紙一重であることは誰でも知っている。病人の本復よりも社会の他のメンバーがその病気に罹患す ることを防ぐことに重きが置かれるからである。国民の一人一人の健康の達成と社会の安寧ということを同時に実現させるようとさせる福祉国家は、それを分業 を通して行おうとしており、全体主義国家は、個人を犠牲にすることを選択するからである。
・社会防衛論は病人が社会に対して及ぼすリスクによってその脅威と社会管理の度合いが測定される。リスクは科学的な預言という行為にも とづくものであるが、それは必然性ではなく確率によって表現されると同時に管理されるのである。
・リスクが管理され、預言されるということはそこにその行為の道徳性が生じる。道徳は人をある一定の行為に駆り立て規範を作ることで、 さらにその道徳が組織的に洗練されるのである。
・全体主義国家ではない福祉国家におけるリスク管理の思想が普及しつつある最たるものが健康管理である。健康管理がリスク管理であると いうことはそれが道徳的に管理されることを意味し、全体主義国家では道徳の主体は社会であり、福祉国家では個人に帰される。前者では病人を排除したり不具 者を抹殺することで社会防衛を貫徹させるが、後者では管理できない個人を排除することができないので、個人は道徳的に非難されるという<社会的機能>をも つことで、そのような個人の発生を防ぎ、また発生した個人を治療を受ける権利から排除することを正当化させることができる。
・リスク管理の思想を、失敗した個人が道徳的に非難されるという恐怖で貫徹させるという福祉国家がもつ<社会的機能>は、失敗した個人 が抹殺されるという全体主義的国家とほとんど同じ機能であることがわかる。
・つまりリスク管理という発想は、全体主義国家では社会による強制力で個人に脅威を与えるが、福祉国家では個人の内面から個人を支配す るという(我々が全体主義に抱いているステレオタイプと同様の)事態を、極限においては生み出すことを意味している。
5.3【私企業の国家への介入:黄金のホロコーストとしてのタバコ産業】
ロバート・プロクター『黄金のホロコースト:たばこの大惨事の起源と廃止の事例』カリフォルニア大学出版局、2011年
【Description】"The cigarette is the deadliest artifact in the
history of human civilization. It is also one of the most beguiling,
thanks to more than a century of manipulation at the hands of tobacco
industry chemists. In "Golden Holocaust", Robert N. Proctor draws on
reams of formerly-secret industry documents to explore how the
cigarette came to be the most widely-used drug on the planet, with six
trillion sticks sold per year. He paints a harrowing picture of tobacco
manufacturers conspiring to block the recognition of tobacco-cancer
hazards, even as they ensnare legions of scientists and politicians in
a web of denial. Proctor tells heretofore untold stories of fraud and
subterfuge, and he makes the strongest case to date for a simple yet
ambitious remedy: a ban on the manufacture and sale of
cigarettes."【Table of Contents】"List of Illustrations Prologue
Introduction: Who Knew What and When? PART ONE. The Triumph of the
Cigarette 1. The Flue-Curing Revolution 2. Matches and Mechanization 3.
War Likes Tobacco, Tobacco Likes War 4. Taxation:The Second Addiction
5. Marketing Genius Unleashed 6. Sponsoring Sports to Sell Smoke 7.
Parties, the Arts, and Extreme Expeditions 8. Clouding the Web: Tobacco
2.0 PART TWO. Discovering the Cancer Hazard 9. Early Experimental
Carcinogenesis 10. Roffo's Foray and the Nazi Response 11. "Sold
American": Tobacco-Friendly Research at the Medical College of Virginia
12. A Most Feared Document: Claude E. Teague's 1953 "Survey of Cancer
Research" 13. "Silent Collaborators": Clandestine Cancer Research
Financed by Tobacco via the Damon Runyon Fund 14. Ecusta's Experiments
15. Consensus, Hubris, and Duplicity PART THREE. Conspiracy on a Grand
Scale 16. The Council for tobacco Research: Distraction Research, Decoy
Research, Filibuster Research 17. Agnotology in Action 18. Measuring
Ignorance: The Impact of Industry Disinformation on Popular Knowledge
of Tobacco Hazards 19. Filter Flimflam 20. The Grand Fraud of
Ventilation 21. Crack Nicotine: Freebasing to Augment a Cigarette's
"Kick" 22. The "Light Cigarette" Scam 23. Penetrating the Universities
24. Historians Join the Conspiracy PART FOUR. Radiant Filth and
Redemption 25. What's Actually in your Cigarette? 26. Radioactivity in
Cigarette Smoke: "Three Mile Marlboro" and the Sleeping Giant 27. The
Odd Business of Butts-and the Global Warming Wild Card 28. "Safer"
Cigarettes? 29. Globalizing Death 30. What Must Be Done Notes Selected
Bibliography Lexicon of Tobacco Industry Jargon Timeline of Global
Tobacco Mergers and Acquisitions Timeline of Tobacco Industry
Diversification into Candy, Food, Alcohol, and Other Products
Acknowledgments Index" - https://ci.nii.ac.jp/ncid/BB25107264.
6.医療をファシズムとしてみる唯一の効用
・近代医療の誕生以降、医療をみるまなざしが、医療は脱政治の領域だと思わせてきた<幻想>を打ち破り、医療をふたたび政治化させる機 能をもつという点で、唯一医療=ファシズムという<妄想>は唯一取り柄をもつ。
●COVID-19パンデミックと、世界の医療の不 平等について
2020年頭からCOVID-19パンデミックが本 格化した。初期の中国武漢での対応や情報統制、それにつつづくWHOの査察、さらには、米国の前政権の根拠の薄弱な生物兵器説、ブラジル大統領のコロナ軽 視と自治体の反発など、COVID-19パンデミックは、人間の疫病に対する問題は、ほとんどあらゆる局面で政治経済現象(political economy of health)であることを経験的に証明した。
The Economist の編集部は、"The right medicine for the world economy: Coping with the pandemic involves all of government, not just the health system"という論説を載せている。その冒頭にはこうあ る。
"It is not a fair
fight, but it is a fight that many countries will face all the same.
Left to itself, the covid-19 pandemic doubles every five to six days.
When you get your next issue of The Economist the outbreak could in
theory have infected twice as many people as today. Governments can
slow that ferocious pace, but bureaucratic time is not the same as
virus time. And at the moment governments across the world are being
left flat-footed."-The
right medicine.
また、BMJには、Political economy of covid-19: extractive, regressive, competitive (https://doi.org/10.1136/bmj.n73) にはもっと露骨に、 Jesse Bump and colleaguesは、"The political economy of covid-19 reflects longstanding patterns of resource extraction linked to racial discrimination, marginalisation, and colonialism"と表現している。
●「コロナウイルス:COVID-19に対する宿主の遺伝的なリスク要因を解明するための世界的な取り組み」の前では、患者のデータは平等
「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の
宿主遺伝学イニシアチブ(COVID-19
HGI)は、COVID-19の遺伝的基盤を調べるための情報資源の照合・共有を目的とした、オープンサイエンスの国際的な共同研究である。COVID-
19
HGIは今回、19か国での46の研究に含まれるCOVID-19患者の最大4万9562人におけるゲノムワイド関連メタ解析の結果を提示している。報告
されたのは、COVID-19の重篤疾患と関連する6座位、中等症から重症のCOVID-19(入院が必要)と関連する9座位、そして、原因病原体である
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染と関連する7座位で、これらには以前報告されたものも含まれている。さらなる解析で
は、これらの関連の基盤である可能性のある遺伝子が優先して調べられ、また、遺伝的相関解析およびメンデル無作為化解析から、COVID-19と他の疾患
や形質との関係が明らかになった」2021年12月16日 Nature 600, 7889)
●遺伝管理社会 : ナチスと近未来 / 米本昌平著, 弘文堂 , 1989 . - (叢書・死の文化, 4) ノート(→「ナチのバイオポリティクス(1943)」 に移転しました!!)
●ナチス時代の人種衛生学:Proctor, Robert. Racial hygiene : medicine under the Nazis. Harvard University Press, 1988. →この項目は「ナチ人種衛生学・ナチ優生学の時代」に移転しました
◎ロバート・N・プロクター『健康帝国ナチス』宮崎尊訳、草思社, 2003年
図書紹介:「「健康は義務である」と、反タバコ運動や食生活改善運動を強力に推進した第三帝国が目指した“ユートピア”とは?今日にもつながる問題を提起する異色のナチズム研究書」
Collaboration
in the Holocaust. Murderous and torturous medical experiments. The
"euthanasia" of hundreds of thousands of people with mental or physical
disabilities. Widespread sterilization of "the unfit." Nazi doctors
committed these and countless other atrocities as part of Hitler's
warped quest to create a German master race. Robert Proctor recently
made the explosive discovery, however, that Nazi Germany was also
decades ahead of other countries in promoting health reforms that we
today regard as progressive and socially responsible. Most startling,
Nazi scientists were the first to definitively link lung cancer and
cigarette smoking. Proctor explores the controversial and troubling
questions that such findings raise: Were the Nazis more complex morally
than we thought? Can good science come from an evil regime? What might
this reveal about health activism in our own society? Proctor argues
that we must view Hitler's Germany more subtly than we have in the
past. But he also concludes that the Nazis' forward-looking health
activism ultimately came from the same twisted root as their medical
crimes: the ideal of a sanitary racial utopia reserved exclusively for
pure and healthy Germans. Author of an earlier groundbreaking work on
Nazi medical horrors, Proctor began this book after discovering
documents showing that the Nazis conducted the most aggressive
antismoking campaign in modern history. Further research revealed that
Hitler's government passed a wide range of public health measures,
including restrictions on asbestos, radiation, pesticides, and food
dyes. Nazi health officials introduced strict occupational health and
safety standards, and promoted such foods as whole-grain bread and
soybeans. These policies went hand in hand with health propaganda that,
for example, idealized the Fuhrer's body and his nonsmoking, vegetarian
lifestyle. Proctor shows that cancer also became an important social
metaphor, as the Nazis portrayed Jews and other "enemies of the Volk"
as tumors that must be eliminated from the German body politic. This is
a disturbing and profoundly important book. It is only by appreciating
the connections between the "normal" and the "monstrous" aspects of
Nazi science and policy, Proctor reveals, that we can fully understand
not just the horror of fascism, but also its deep and seductive appeal
even to otherwise right-thinking Germans. |
ホロコーストに協力
殺人的で拷問的な医学実験。精神または身体に障害を持つ何十万人もの人々の「安楽死」。不適格者の不妊手術。ナチスの医師たちは、ドイツの支配者民族を作
り出そうとするヒトラーの歪んだ探求の一環として、これらと他の無数の残虐行為を行ったのである。しかし、ロバート・プロクターは最近、ナチス・ドイツが、今日のわれわれが進歩的で社会的責任があると考える健康改革を、他の国より何十年も先に進めていたことについて、それこそ爆発的な多くの発見をしたのである。最も驚くべきは、ナチスの科学者たちが、肺がんとタバコの煙との関連性を初めて明らかにしたことである。プロクターは、このような発見が提起する論争的で厄介な疑問について探求している。ナ
チスは我々が考えている以上に道徳的に複雑だったのか?悪の政権から良い科学が生まれることはできるのか?このことは、私たち自身の社会における健康運動
について何を明らかにするのだろうか?プロクターは、ヒトラーのドイツをこれまで以上に微妙にとらえなければならないと主張している。しかし、ナチスの前
向きな健康運動は、結局のところ、彼らの医療犯罪と同じねじれた根源から生まれたものであるとも結論付けている。ナチスの医学的恐怖に関する画期的な著作の著者であるプロクターは、ナチスが現代史において最も積極的な禁煙キャンペーンを行ったことを示す資料を発見したことから本書を書き始めた。さらに調査を進めると、ヒ
トラー政権はアスベスト、放射線、殺虫剤、食品染料などの規制を含む幅広い公衆衛生対策を可決したことがわかった。また、労働安全衛生基準も厳しくし、全
粒粉パンや大豆などの食品を奨励した。これらの政策は、例えば、総統の体や禁煙、菜食のライフスタイルを理想化するような健康プロパガンダと密接に関係し
ていた。プロクターは、ナチスがユダヤ人やその他の「民衆の敵」を、ドイツの政治的体質から排除されるべき腫瘍として描いたため、癌が重要な社会的隠喩と
なったことも示している。本書は、不穏な空気を漂わせながらも、非常に重要な一冊である。ナチスの科学と政策の「正常な」側面と「怪物的
な」側面の間のつながりを理解することによってのみ、ファシズムの恐ろしさだけでなく、他の正しい考えを持つドイツ人にさえも深く魅惑的なその魅力を十分
に理解することができると、プロクターは明かしているのである。 |
CONTENTS
LIST OF ILLUSTRATIONS ix PROLOGUE 3 CHAPTER 1 Hueper's Secret 13
Triumphs of the Intellect 15 "The Number One Enemy of the State" 20
Erwin Liek and the Ideology of Prevention 22 Early Detection and Mass
Screening 27 CHAPTER 2 The Gleichschaltung of German Cancer Research 35
The Fates of Jewish Scientists 36 Registries and Medical Surveillance
40 The Rhetoric of Cancer Research 45 Romancing Nature and the Question
of Cancer's Increase 51 CHAPTER 3 Genetic and Racial Theories 58 Cancer
and the Jewish Question 58 Selection and Sterilization 68 CHAPTER 4
Occupational Carcinogenesis 73 Health and Work in the Reich 74 X-Rays
and Radiation Martyrs 83 Radium and Uranium 93 Arsenic, Chromium,
Quartz, and Other Kinds of Dusts 102 The Funeral Dress of Kings
(Asbestos) 107 Chemical Industry Cancers 114 CHAPTER 5 The Nazi Diet
120 Resisting the Artificial Life 124 Meat versus Vegetables 126 The
Fuhrer's Food 134 The Campaign against Alcohol 141
Performance-Enhancing Foods and Drugs 154 Foods for Fighting Cancer 160
Banning Butter Yellow 165 Ideology and Reality 170 CHAPTER 6 The
Campaign against Tobacco 173 Early Opposition 176 Making the Cancer
Connection 178 Fritz Lickint: The Doctor "Most Hated by the Tobacco
Industry" 183 Nazi Medical Moralism 186 Franz H. Muller: The Forgotten
Father of Experimental Epidemiology 191 Moving into Action 198 Karl
Astel's Institute for Tobacco Hazards Research 206 Gesundheit uber
Alles 217 Reemtsma's Forbidden Fruit 228 The Industry's Counterattack
238 Tobacco's Collapse 242 CHAPTER 7 The Monstrous and the Prosaic 248
The Science Question under Fascism 249 Complicating Quackery 252
Biowarfare Research in Disguise 258 Organic Monumentalism 264 Did Nazi
Policy Prevent Some Cancers? 267 Playing the Nazi Card 270 Is Nazi
Cancer Research Tainted? 271 The Flip Side of Fascism 277 NOTES 279
BIBLIOGRAPHY 351 ACKNOWLEDGMENTS 365 INDEX 367 |
目次 ILLUSTRATIONS LIST INX PROLOGUE 3 第1章 ヒューパーの秘密 13 知性の勝利 15 「国家の一番の敵」 20 エルヴィン・リークと予防の思想 22 早期発見と集団検診 27 第2章 ドイツ癌研究のグライヒシャルトゥング 35 ユダヤ人科学者たちの宿命 36 登録と医療監視 40 がん研究のレトリック 45 自然へのロマンとがんの増加の問題 51 第3章 遺伝説と人種説 58 がんとユダヤ人問題 58 選択と不妊化 68 第4章 職業発がん 73 帝国における健康と労働 74 X-線と放射線の殉職者 55 線と放射線殉職者 83 ラジウムとウラン 93 ヒ素。クロム、石英、その他の種類の粉塵 102 王様の葬儀着(アスベスト) 107 化学産業の癌 114 第 5 章 ナチの食事 120 人工生命に抵抗する 124 肉対野菜 126 総統の食事 134 アルコール反対運動 141 身体強化食品と薬 154 癌と戦うための食品 160 バターイエローの禁止 165 理念と現実 170 第 6 章 タバコ反対運動 173 初期の反対 176 がんとの関連付け 178 フリッツ・リキント(Fritz Lickint)。タバコ産業から最も嫌われた」医師 183 ナチスの医療モラリズム 186 フランツ・H.ミュラー 実験疫学の忘れられた父 191 行動に移す 198 カール・アステルのタバコ有害性研究所 206 Gesundheit uber Alles 217 Reemtsmaの禁断の果実 228 産業界の反撃 238 タバコの崩壊 242 第7章 怪奇と俗悪 248 ファシズム下の科学問題 249 ヤブ医者の複雑化 252 偽装生物兵器研究 258 有機モニュメンタリズム 264 ナチの政策で一部の癌が予防されたか?267 ナチス・カードを使う 270 ナチスの癌研究は汚染されているか?271 ファシズムの裏返し 277 注釈 279 文献 351 謝辞 365 索引 367 |
◎Robert N. Proctor, Golden holocaust : origins of the cigarette catastrophe and the case for abolition, University of California Press, c2011
The cigarette is the
deadliest artifact in the history of human civilization. It is also one
of the most beguiling, thanks to more than a century of manipulation at
the hands of tobacco industry chemists. In "Golden Holocaust", Robert
N. Proctor draws on reams of formerly-secret industry documents to
explore how the cigarette came to be the most widely-used drug on the
planet, with six trillion sticks sold per year. He paints a harrowing
picture of tobacco manufacturers conspiring to block the recognition of
tobacco-cancer hazards, even as they ensnare legions of scientists and
politicians in a web of denial. Proctor tells heretofore untold stories
of fraud and subterfuge, and he makes the strongest case to date for a
simple yet ambitious remedy: a ban on the manufacture and sale of
cigarettes. |
タバコは、人類の文明史上、最も致命的な芸術品である。それはまた、タ
バコ産業の化学者の手で操作の世紀以上のおかげで、最も魅力的なの一つである。ロバート・N・プロクターは、「ゴールデン・ホロコースト」の中で、タバコ
がいかにして地球上で最も広く使用される薬物となり、年間6兆本が販売されるようになったかを、かつての業界機密文書の膨大な量に基づいて探求している。
プロクターは、タバコメーカーがタバコの癌の危険性を認識させないように共謀し、多くの科学者や政治家を否定の網にかけようとする悲惨な絵を描いている。
プロクターは、これまで語られることのなかった詐欺と策略の物語を語り、シンプルかつ野心的な救済策、すなわちタバコの製造と販売の禁止について、これま
でで最も強力な主張をしている。 |
List of Illustrations Prologue
Introduction: Who Knew What and When? PART ONE. The Triumph of the
Cigarette 1. The Flue-Curing Revolution 2. Matches and Mechanization 3.
War Likes Tobacco, Tobacco Likes War 4. Taxation:The Second Addiction
5. Marketing Genius Unleashed 6. Sponsoring Sports to Sell Smoke 7.
Parties, the Arts, and Extreme Expeditions 8. Clouding the Web: Tobacco
2.0 PART TWO. Discovering the Cancer Hazard 9. Early Experimental
Carcinogenesis 10. Roffo's Foray and the Nazi Response 11. "Sold
American": Tobacco-Friendly Research at the Medical College of Virginia
12. A Most Feared Document: Claude E. Teague's 1953 "Survey of Cancer
Research" 13. "Silent Collaborators": Clandestine Cancer Research
Financed by Tobacco via the Damon Runyon Fund 14. Ecusta's Experiments
15. Consensus, Hubris, and Duplicity PART THREE. Conspiracy on a Grand
Scale 16. The Council for tobacco Research: Distraction Research, Decoy
Research, Filibuster Research 17. Agnotology in Action 18. Measuring
Ignorance: The Impact of Industry Disinformation on Popular Knowledge
of Tobacco Hazards 19. Filter Flimflam 20. The Grand Fraud of
Ventilation 21. Crack Nicotine: Freebasing to Augment a Cigarette's
"Kick" 22. The "Light Cigarette" Scam 23. Penetrating the Universities
24. Historians Join the Conspiracy PART FOUR. Radiant Filth and
Redemption 25. What's Actually in your Cigarette? 26. Radioactivity in
Cigarette Smoke: "Three Mile Marlboro" and the Sleeping Giant 27. The
Odd Business of Butts-and the Global Warming Wild Card 28. "Safer"
Cigarettes? 29. Globalizing Death 30. What Must Be Done Notes Selected
Bibliography Lexicon of Tobacco Industry Jargon Timeline of Global
Tobacco Mergers and Acquisitions Timeline of Tobacco Industry
Diversification into Candy, Food, Alcohol, and Other Products
Acknowledgments Index |
図版一覧 プロローグ はじめに 誰が何をいつ知ったか?第1部.
タバコの勝利 1. 煙管硬化革命 2. マッチと機械化 3. 戦争はタバコが好き、タバコは戦争が好き 4. 税制:第二の中毒 5.
天才的なマーケティング 6. 煙を売るためのスポーツのスポンサー 7. パーティー、芸術、極限状態での探検 8.
ウェブを曇らせる。タバコ2.0 パート2. 癌の危険性を発見する 9. 初期の実験的発がん 10. ロッホの遠征とナチスの反応 11.
"売られたアメリカ人"。バージニア医科大学におけるタバコに配慮した研究 12. 最も恐れられていた文書
クロード・E・ティーグによる1953年の「癌研究に関する調査」 13.
「沈黙の協力者」。デイモン・ラニヨン基金を通じてタバコが資金源となっていた秘密の癌研究 14. エクスタの実験 15. 合意、傲慢、二枚舌
PART THREE. 大規模な陰謀 16.タバコ研究評議会 気晴らしの研究、おとり研究、フィリバスター研究 17. 行動するアグノトロジー
18. 無知を測る。タバコの害に関する大衆の知識に対する業界の偽情報の影響 19. フィルター・フリングラム 20. 換気という大いなる詐欺
21. クラック・ニコチン タバコの「キック」を増強するためのフリーベース 22.軽いタバコ」詐欺 23.大学への浸透
24.歴史家も陰謀に加わる PART FOUR. 放射状の汚物と贖罪 25. タバコの中には何が入っている?26. タバコの煙に含まれる放射能
スリーマイル・マルボロ」と「スリーピング・ジャイアント(眠れる巨人)」 27. 吸殻の奇妙なビジネスと地球温暖化のワイルドカード 28.
「より安全な」タバコ?29. グローバル化する死 30. 30.なすべきこと 注釈 選択された参考文献 タバコ産業専門用語辞典
世界のタバコM&A年表 タバコ産業多角化年表 キャンディ、食品、アルコール、その他の製品への転換 謝辞 索引 |
+
リンク
文献
その他の情報
Copyleft, CC, Mitzub'ixi Quq Chi'j, 1996-2099
The Atomic Mr. Basie is a 1958 album by Count Basie and his orchestra. The album is one of Basie's most famous and is critically acclaimed. Wikipedia/グアダルーペ聖母の顕現
目次 1.ファシズムとファシズムへの抵抗を想起すること [散文集]
2.ファシズムの問題構成 3.患者と国家 4.近代医療批判の系譜
5.近代=医療の終焉
6.結論——医療をファシズムとしてみる唯一の効用 |