はじめによんでください
多元化する日本社会
本日[来週]の課題は「日本における外国人労働者問題」(第7回・5月31日)を重複する議論もあるが、日本社会のエスニックな多元化の主た る原因になっている外国人労働者――労働者の流入の主要因は経済[国際貿易収支、国内生産、生活水準と賃金格差]に他ならない――の流入、増加、転出につ いて、主に政策の観点から考える。なぜグローバル化への対応を考えるのに草の根から考えないのかという疑問には私は次のように応えよう。個人や共同体ある いは地域ベースでのグローバルコレラボレーションという実践が生まれる以前に、国家はその枠組みについてさまざまな何らかの規範(例:法律)を定め、外国 人への政策を先行して実施しているから、そのことに精通しておかねば、我々はともすれば、理想に絆(ほだ)されて非現実的で頓珍漢な行動に出るかもしれな いからだ。
この分野に関する社会学研究の日本での第一人者である駒井洋(こまい・ひろし;1940- )の主張をまず手がかりにして、5〜6名のグルー プで討議し、司会とレポーターを決め、議論終了後に、教室全員のメンバーに各グループの議論の結果をフィードバックする。
【命題文】
「(これまで)日本が低賃金の外国人労働者の導入に消極的であったことが、生産拠点の海外移転に拍車をかけたことを指摘した。それでは、国 内の生産能力を回復するために、日本は低賃金の労働力の積極的な大量導入に踏み切るべきであろうか。わたしは、この問題については、第一に外人労働者が日 本社会の底辺階級となる可能性が高いことを指摘したい。……現在日本で就労しているブルーカラー的外国人労働者はきわめて劣悪な労働条件をしいられている が、この状況が拡大再生産されることになろう。第二に、これほど大規模な生産拠点の海外移転が既成事実となってしまっている以上、中途半端な導入は国内の 低生産部門を温存させるばかりでなく、犠牲をはらって海外移転に踏み切った企業とのあいだに構造的不公正を引き起こすことになるだろう。したがって、低賃 金の外国人労働力の大量導入は、政策としての現実性をもっていない」(駒井 2006:36-37)。
【課題】
外国人労働者の位置づけについて、この文章の著者である駒井と議論するためには、我々はどのようなタイプの情報が必要になるだろうか。下記 の論点に関する分析を参考にしながら議論しなさい。
【駒井の論点(2006)を分析する観点】
1)日本が低賃金の外国人労働者の導入に消極的であった
1−1 いつから?
1−2 どのように?
2)生産拠点の海外移転に拍車をかけた
2−1 そもそも海外移転の主要因はなにか?(=なぜ海外に移転するのか)
2−2 生産拠点の海外移転に伴う、国内労働者にとってのメリットとデメリットは?
3)国内の生産能力を回復するため
3−1 日本の「生産能力」を回復するとは具体的にどのようなことか?
3−2 生産能力を回復することは、日本国民に何をもたらすのか?
4)日本は低賃金の労働力の積極的な大量導入に踏み切るべきであろうか
4−1 低賃金労働力を導入する経済学上の理論は本ハンドアウト巻末を参照。
5)外人労働者が日本社会の底辺階級となる可能性が高いこと
5−1 日本の「底辺階級」を駒井の主張に即しながら定義してみてください。
5−2 外国人を除くと、どのような「底辺階級」がいるのか、上の定義に即して具体例をあげてみなさい。
6)日本で就労しているブルーカラー的外国人労働者はきわめて劣悪な労働条件をしいられている
6−1「ブルーカラー」とはなにか? なぜそのように「ブルー」と言われるのか?
6−2「ブルーカラー」に対比する概念を「ホワイトカラー」という。どのような職種がそれに相当するか?
7)ブルーカラー的外国人労働者の劣悪な労働条件状況が拡大再生産される
7−1「拡大再生産」とは具体的に外国人労働者が今後どのような処遇をされることを意味するのか、具体的に表現しなさい。
8)大規模な生産拠点の海外移転が既成事実となってしまっている
8−1 「大規模な生産拠点の海外移転」先について、みなさんが知っている例をなるべく多くあげてください
(ヒント:所持品の商標[ブランド]の本社所在地と生産地をチェックするとよい)。
8−2 「海外移転が既成事実」となった政策的な理由を説明できるか?
9)中途半端な[ブルーカラー外国人労働者の]導入は国内の低生産部門を温存させる
9−1 なぜ労働者の受け入れが「国内の低生産部門を温存させる」のか?
9−2 「国内の低生産部門を温存」するとはそもそもどういうことか?それを説明できるか?
10)犠牲をはらって海外移転に踏み切った企業
10−1 ここで払われた「犠牲」とはなにか?
10−2 労働集約による生産企業(→8の設問を参照)の特徴をあげて、国内生産拠点を海外にもとめる要因と、どのような収支のバランスが海 外に生産拠点をもとめることに「踏み切る」のかについて考えなさい。
11)構造的不公正を引き起こす
11−1 なぜ「構造的」なのか? 駒井のいう構造は「何についての」構造なのか? みなさんで想像しなさい。
11−2 この構造が何についてか理解したときに、どうして「不公正」になるか考えなさい。
12)低賃金の外国人労働力の大量導入は、政策としての現実性をもっていない
12−1 外国人労働力の大量導入を「具体的な政策」として実現するのであれば、どのような「方法」があるのか?
12−2 なぜ「政策としての現実性」を持たないのか? 政策の実現を阻む障害について考えなさい。
【応用問題】
上の駒井(2006)の主張が、完全ではないにせよ、ある程度妥当であるという条件のもとで、皆さんが政策立案者であれば、日本の国内におい て以下の3つのレベル、すなわち(i)マクロレベル、(ii)メゾレベル[=中間レベル]、(iii)ミクロレベルで具体的にどのような政策を実行すれ ば、日本経済の「健全な成長」と国内外の外交問題としての「外国人移民労働者問題」の解決の寄与に貢献することが可能となるのか考えてください。それぞれ のレベルで3つの具体的な施策を挙げてください。
(i)マクロレベル
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(ii)メゾレベル[=中間レベル]
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(iii)ミクロレベル
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クレジット
文献
・駒井洋『グローバル化時代の日本型多文化共生社会』明石書店、2006年[→多元化する 日本社会の試練]
・___「人権を重視する受け入れ体制」(第2章)『グローバル化時代の日本型多文化共生社会』明石書店、2006年[Komai2006_48L.pdf](解除コードに関する情報はポータルページに)
・井口泰『外国人労働者新時代』(ちくま新書 288)筑摩書房、2001年
外国人労働力受け入れの経済学:A先進国とB後進国の労働力(AD/DB)と賃金率のグラフ
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関連リンク
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