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のらくろ帝国主義入門

Norakuro in all-out attack, The Japanese Imperial Army Soldier's sojourn with-in "Romantic" Chinese Battles: A critique.

講師:池田光穂

田河水泡『のらくろ総攻撃』(昭和12年、1937)から帝国の表象システムを学びます。

のらくろとは、野 良犬の黒吉を短く詰めて表現したものです。登場する動物たちが擬人化され て、あたかも人間たちのように振る舞うストーリーです。のらくろは、戦前、とくに15年戦争 期の日本の少年(少女にどれくらいのインパクトがあったのかは不詳)の心を魅了した作品です。とくに、『少年倶楽部』に1931ねんから連載された、戦前 の一連ののらくろ物語は、社会的に係留点をもた ない——文字どおり出自不詳の放浪犬——彼が新しく得た軍隊という共同体の中で、単行本の刊行ごとに、彼の機知に満ちた活躍によって武功を立ててゆく立身 出世の夢物語を形成します。

のらくろは、ユーモアもあり正義漢に燃えた善良な市民を表象しますが、局所的な善行——周囲の人 =犬への思いやりや誠実さ——を積み重ねてゆくことで、帝国軍隊のメカニズムに完全に組み込まれ、帝国主義そのものを体現するマシーンの一部になります (→「日本の軍隊」)。 それがのらくろの運命であり、悲劇でもあります。異文化の人々=豚、羊、熊への抑圧や攻撃あるいは人々からの反撃の可能性について思いやることがないため に、自らが歴史の犠牲者になる可能性のことを忘却していました。これらの一連の悲劇は、のらくろに重ねられる日本人の悲劇でもあります。

のらくろの作品の新しい読み方を通して、歴史の教訓を得ることが可能になります。

以下に、田河水泡『のらくろ総攻撃』(1937)の読み方——ひとつの解釈——について解説しま す。

【重要文献】

山口昌男、1978 「のらくろはわれらの同時代人」『知の遠近法』Pp.99-127、東京: 岩波書店。

山口昌男、2000 「田河水泡を読む——近代日本漫画のアルケオロジー」『敗者学のす すめ』Pp.224-243、東京:平凡社。

小熊英二「第16章 死者の越境」『<民主>と<愛国>』Pp.717-792、東京:新曜社

小松裕、2003「近代日本のレイシズム—民衆の中国(人)観を例に—」『(熊本大学)文学部論 叢』第78巻、Pp.43-65、熊本大学文学会。

坂野潤治(ばんの・じゅんじ)、2004『昭和史の決定的瞬間』ちくま新書、東京:筑摩書房。

筒井清忠、2008『昭和10年代の陸軍と政治』東京:岩波書店。

田中克彦、2009『ノモンハン戦争:モンゴルと満洲国』岩波新書、東京:岩波書店。

緒方貞子、1966『満州事変と政策の形成過程』東京 : 原書房。

細谷千博、2005『シベリア出兵の史的研究』(岩波現代文庫)東京:岩波書店。

ダワー、ジョン 2001『容赦なき戦争:太平洋戦争における人種差別』斎藤元一訳、平凡社(以下の書誌と同じものです:ダワー、ジョン 1985『人種偏見』斎藤元一訳、東京:TBSブリタニカ)。

ドナルド・ダックを読む方法】ドルフマン,アリエルとアルマン・マラトゥール1,1984『ドナルド・ダッグを読む』山崎カヲ ル 訳、東京:晶文社; Ariel Dorfman and I Armand Mattelart, Para Leer al Pato Donald, Ediciones Universitarias de Valparaiso, 1971.,(How to Read Donald Duck.) A-Dorfman_Mattelart-how-to-read-donald.pdf

■村井紀「解説」明石海人の”闘争”」『明石海人歌集』村井紀編、Pp.265-309,  岩波文庫、岩波書店, 2012年

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■ Maus : a survivor's tale I & II / Art Spiegelman, Pantheon Books , 1997

●のらくろの「猛犬聯隊」と、その敵の動物表象

■ のらくろ情報リンク

★"China - The Cake of Kings...And of Emperors" 1898

■ 1929年(前史)

「それに、我カムサツカの漁業は蟹罐詰ばかりでなく、鮭、鱒と共に、国際的に云ってだ、他の 国とは比らべもならない優秀な地位を保っており、又日本国内の行き詰った人口問題、食糧問題に対して、重大な使命を持っているのだ。こんな事をしゃべっ たって、お前等には分りもしないだろうが、ともかくだ、日本帝国の大きな使命のために、俺達は命を的に、北海の荒波をつッ切って行くのだということを知っ てて貰わにゃならない。だからこそ、あっちへ行っても始終我帝国の軍艦が我々を守っていてくれることになっているのだ。……それを今流行りの露助の真似を して、飛んでもないことをケシかけるものがあるとしたら、それこそ、取りも直さず日本帝国を売るものだ。こんな事は無い筈だが、よッく覚えておいて貰うこ とにする……」小林多喜二『蟹工船』1929年:初出は「戦旗」誌

■ 1931〜1941年の「の らくろ

1931 昭和6
大日本雄辯會講談社(現・講談社)の雑誌 『少年倶楽部』にて連載始まる。猛犬聯隊創立(昭和6年, 1931年)
満州事変→満州のほぼ全域を占領
1932 昭和7
山猿と戦争(昭和7年、1932年)『の らくろ上等兵*』
(3月)満州国を建国
(5月15日)五・一五事件、海軍青年将校が犬養毅を暗殺
1933 昭和8
ゴリラと戦争(昭和8年、1933年); 軍旗制定(昭和8年、1933年)『のらくろ伍長*』
(3月)国際連盟脱退、国際連盟リットン 調査団の報告書で満州国を中国に返還
1934 昭和9
象狩り(昭和9年、1934年)『のらく ろ軍曹*』
3月1日 - 満州国にて帝政実施。執政溥儀が皇帝となる
5月30日 - 東郷平八郎元帥死去。東郷神社建設の声が全国で起る。
10月1日 - 陸軍省がパンフレット「国防の本義と其強化の提唱」を配布、社会主義国家創立を提唱(Japanese_military_doctrine_oct_1934.pdf
1935 昭和10
チンパンジーと戦争(昭和10年、 1935年)かっぱ征伐(昭和10年、1935年)『のらくろ曹長*』 天皇機関説事件
1936 昭和11
蛙討伐(昭和11年、1936年)『のら くろ小隊長*』 (2月26日)二・二六事件、陸軍の青年 将校が要人を襲撃
1937 昭和12
熊退治(昭和12年、1937年)『のら くろ少尉*』;『のらくろ總攻撃*』豚軍と戦争(昭和12年、1937年) (7月7日)盧溝橋事件以降、日中戦争が 本格化(~1945年)
1938 昭和13
『のらくろ決死隊長*』『のらくろ武勇談 *』
(4月)国家総動員法が制定、戦争目的な ら国家が人的物的財産を自由にできる体制確立
1939 昭和14
『のらくろ探検隊*』
(9月1日)第二次世界大戦開戦
1940 昭和15

(9月)日独伊の三国同盟が成立
1941 昭和16
内務省の令により連載中止
(4月)日ソ中立条約締結
(12月8日)真珠湾攻撃により太平洋戦争開戦

  菊と刀から……

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