在日外国人支援の現場における参与実践
Participatory Practice in the Context of Medical Translation of Multi-ethnic Japan
このページは大阪大学グローバルCOEプログラム「コンフリクトの人文学国際研究教育拠点」の研究プロジェクト「在日外国人支援の現場における 参与実践」(代表者:池田光穂)に関する資料アーカイブにリンクするポータルページです。
在日外国人支援の現場における参与実践(2010年度までの総括)
本研究プロジェクトは「在日外国人支援の現場における参与的実践」である。平成19(2007)年10月から始まった初年度の課題名は「在日 外国人への医療・福祉・教育支援の現状と課題:参与実践の方法からみえてくるもの」と銘打っていたが、翌年度からこの課題名に変更した。変更の理由は「コ ンフリクトの具体的な現象」について仔細に検討するためには、問題が起こっている領域、すなわち医療・福祉・教育に焦点化するのが賢明だが、具体的支援や そのための人材育成を目的とする「国際研究教育拠点」形成のためには、その領域を包括する問題が抱えるコンフリクト解決に踏み出せるような実践的方法につ いての研究開発が欠かせないと判断したためである。他の研究グループには、医療・福祉・教育領域におけるコンフリクト問題の分析と実践の専門家も多くお り、重複を避け、独自性を出すためへの変更となった。
初年度は、個別実態研究、成果報告を前提とした共同研究会の開催、海外拠点とのネットワーク形成と、かなり欲張りなロードマップを描いた。同 2007年度に、医療通訳の現状を把握するためオーストリア連邦シドニーに調査を行い、国内の関連学会や研究会に現在まで参加している。しかしながら、日 本における医療通訳の現在進行中のプロセスは、中央政府、地方自治体、企業化した医療法人、私自身も発起人として関わっている団体を含む通訳翻訳関連学 会、市民団体など、それらの動きは、きわめて流動的かつ群雄割拠である。とりわけ、俗に「専門家」と呼ばれている影響力をもつ人たちにおいては気まぐれで 冗長(redundant)な「余計な介入」とも思える動きがある。そのような動態や情勢を見聞きするに及び、コンフリクト解消どころか現在それに関わっ ている「専門家の役割」は、むしろコンフリクトの局所化(localization)という混乱の原因になっているのではないかという心証まで抱くように なったのが正直なところである。
それゆえに平成20(2008)年度から実践的関与に関する方法論とその理論についての研究に重点を移すようにしたのは、現在の職場での研究 や授業とも関連づけて、私の得意とする領域——もともと応用医療人類学の批判的研究から現在の仕事にアプローチしてきたので——に近かったからである。 2008年7月には国際医療関係の学会で、医療的多元化(medical pluralism/pluralization)を推し進めることと、外国人に対して医療や福祉サービスを受ける普遍的人権を市民社会に定着させること は、矛盾しないことを指摘した。加えて、ニューカマーズに関わる社会活動は、参与実践(participant practice)であり、多文化社会状況を促進させる医療通訳者を、仲介的実践者(mediative practitioner)として位置づけることが、来るべき市民社会では重要な役割になることを主張した。今日しばしば見られる、通訳者の一元的資格化 や専門職集団の規範化としての倫理要綱の策定という、既存の専門家の職業独占をモデルにしたやり方は、非常にフレキシブルな国際人流とグローカル化する社 会の変化に対応できないどころか、人種主義的な政策からいまだに脱却できない国民国家の統治システムに補完的機能すら与えることが明確になりつつあること を、これまでの研究の過程で見いだすことができた。そのような「専門家の善意」にもとづく構造的暴力への加担を回避するため、アクションリサーチに淵源す るCBPR(コミュニティに基づく参加型研究)や、コンフリクト解消を模索する当事者への成人教育学(andragogy)領域で一定の歴史的評価をも つ、パウロ・フレイレの意識化(conscientization)、対話論理論(dialogism)、正統的周辺参加(LPP)、問題に基づく学習 (PBL)などについて、これまで開催してきたワークショップなどで紹介してきた(2008〜2010年度)。また「渡日外国人労働者に対する構造的暴 力」について関連学会や研究会などで、研究者集団に紹介し、その実例を報告してきた。さらに平成22(2010)年度からはEPA(二国間経済連携協定) によるフィリピンおよびインドネシアからの介護福祉士・看護師候補研修生への日本での支援活動の研究に関わり、同様の観点からその分析を遂行中である。
このような研究上の成果として、平成22(2010)年度にはグローコルからの共同研究会「先住民・エスニックマイノリティのディアスポラと グローバリゼーション」という学内の競争的研究資金を獲得できたという結果に繋がった。教育面では、高度副プログラム「グローバル共生社会」に関わり、本 年度平成23(2011)年度からのCSCD科目「グローバル共生社会論」においては、応用人類学・開発人類学・公共人類学の実践的側面に主力を置いた大 学院生向けの授業に反映させている。 最終年度は、他のプロジェクトチームと同様に、(1)報告書のとりまとめと(2)成果の社会還元ならびに公表活動としての商業出版の模索、および(3) この研究成果にもとづく研究と教育活動をサステイナブルにする新たな外部資金の調達(科研費、JST、民間基金等)活動を本格化する所存である。
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