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トランスマイグレーションの倫理学

The Ethics of International Transmigration of Health Workers

池田光穂

私の研究プロジェクトのひとつが「ASEAN経済共同体(AEC)・EPA状況下の医療保健人材の東アジア域内移動について」である。

これは、日本における経済連携協定(EPA, Ecomonic Partnership Agreement)をアジアの国々と取り結び、アジアからの研修・候補生を日本における介護・看護人材の供給として政府が考え、実際に政策しているものである。

もちろん、これにはアジアの移民送出国との互恵的な 思惑にも関連している。つまり、移民送出国側には、移民送出国内における人口増加への対処、そして、短期・中期における派遣労働者による日本からの海外送 金による外貨(円貨)の獲得がある。そして移民受入国側(日本)には、送出国側からの天然資源の輸入と日本製品の輸出という貿易の促進である。

もちろん、移民送出国にも受入国側にも、固有の経済発展、国内産業(人口)事情、国際的な貿易収支、外交政治関係がある。例えば、先に、「日本における介護・看護人材の供給として利用しよう」というが、日本における看護職の専門利益団体である(公財)日本看護協会The Japan Nursing Association) は、国内における看護の「質保証」のためには、外国人労働者からの期待をしておらず、国内養成における人材で、今後とも人材を活用する方針を以前より変え てはいない。それに対して、介護労働の現場では、恒常的な国内教育機関での養成にもかかわらず、慢性的に人材不足であり、EPAによる介護人材の確保は、 それのみの唯一の手段ではないが、有効な方策として利用されている。

また、国際的な労働者への人権規約を認めていない「外国人技能実習制度」も、導入初期の問題も、その受け入れ機関あっせん業務に、国に準ずる機関=(公財)国際研修協力機構(JITCO, The Japanese International Training Cooperative Organization)が関わっているために、技能実習法(外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律,2017年11月1日施行)などの整備がおこなわれ、徐々にではあるが改善傾向にある。

このような状況のもとで、社会倫理学的に、どのようなポイントが、送出/受入、国内での労働や滞在、そして帰国後のケアにおいて、「倫理的課題」になるのか、その移動の時系列に応じて、その留意点を整理してみた。

派遣前
派遣後・滞在中
帰国後
・適切な広報と募集
・徴募や選出に関する公平性
・労働条件や人権的取り扱いに関するインフォームドコンセント
・受入先の国内法の理解や賠償請求に関する説明と理解
・渡航旅費や滞在費、あるいは就業後の福利厚生に関する説明と契約
・日本語や日本文化理解に関する就業中におけるOJT
・労働者としての権利と義務の履行に関する定期的な点検
・契約にもとづく遵守事項と違反に関する扱いの説明
・労働基準監督に準ずる外国人労働者の地位や就業の保証
・労働環境における福利厚生/滞在中の健康保険制度
・労働災害補償制度
・公正な昇級や公正な判断による減給や懲戒に関する規定
・契約途中における解除と中断の保証
・雇用主による解雇規定とその後の取り扱いに関する規定
・カウンセリングや異議申し立ての聴訴制度の整備
・帰国後の再就職先あっせんや事後的ケア
・在留資格の変更しても滞在を継続する際の情報提供
・国内での研修の成果が帰国後も活かされているかどうかに関するフォローアップとそれに基づく派遣前・派遣後・滞在中のケアに関するフィードバック
・帰国後の後進の派遣事業に関与できるような「派遣経験の継承」への配慮
・草の根国際交流という観点からの現地同窓組織の育成

■トランスマイグレーションの倫理学の10のテーゼ

1970年代の韓国から西ドイツへの看護人材の移民

JUNG Yong-suk, 2018. Beyond the Bifurcated Myth: The Medical Migration of Female Korean Nurses to West Germany in the 1970s. Korean J Med Hist 27ː225-266 August 2018. http://dx.doi.org/10.13081/kjmh.2018.27.225

Der Spiegel 紙(1972年)Koreas Not ist unser Nutzen (Korea's need is our benefit)と読める Weltmission (Evangelisch-methodistische Kirche)による意見広告

地域研究批判

"The crisis of "area studies" is the crisis of old borders, be they nation borders or civilization borders. It also the crisis of the distinction between hegemonic (discipline-based knowledge) and subaltern (area-based knowledges), as if discipline-based knowledges are geographically disincorporated" (Mignolo 2000:310) - in the Post Samuel Huntington's regional-area studies paradigm? (→「地域研究」)

対位法的読解の事例:トランスミグラシ(インドネシア語:Transmigrasi)

トランスミグラシTransmigrasi)とは、オランダ東インド会社及びそれに後継するインドネシア政府によって先導された過密地域から過疎地域へと人口を移転させる政策である。ジャ ワ島を中心にバリ島、マドゥラ島を含めた島々からイリアンジャヤ、カリマンタン、スマトラ島、スラウェシ島を含む低密度地域へと恒久的な人口移動をする政 策であり、その目的はジャワ島に於ける飢餓や過密と言う問題を減らし、貧しい労働者に職を与え、その他の島々の天然資源開発に必要な労働力を供給するとこ ろにある。しかしながら、移転先の島々に元来居住していた人々がジャワ化(Javanisation)やイスラム化(Islamization)に対し分離運動や住民対立を引き起こすおそれがあり、物議を醸している」。歴史的には「19世紀初頭に過密の抑制及びスマトラ島のプランテーションの労働力の供給(→強制栽培制度"Cultivation System[cultuurstelsel]") のために始まった。オランダの治世が終わる1940年代には一度廃止となったが、インドネシアが独立すると食糧不足の軽減や経済発展効率の改善のためにス カルノ政権によって第二次世界大戦後に復活」する(ウィキペディア日本語)- Anata, Aris (2003). The Indonesian Crisis: A Human Development Perspective. Singapore: Institute of Southeast Asian Studies. pp. 229–230.

【参照】[強制栽培制度]「1830年代から 1930年代までのおよそ1世紀間の ジャワ島の稲作経済について経済史的研究をおこなった大木昌は、この島への米の輸出入についておよそ次のような傾向を指摘している(大木 2001)。 ジャワ島では、ジャワ戦争を通して地域社会を平定したオランダ植民地政府は、「強制栽培制度」という輸出用作物への農業転換政策をおこなった。その後、米 の生産は増加し続け、19世紀の中頃には輸出のピークを迎えるほどになっていた。ところが19世紀の後半期に入ると、人口増加と農業の自由主義政策の転換 の結果、米の輸出入の割合は逆転する傾向がみられ、1878年以降はジャワ島ひいては、インドネシア全体が米の輸入地域へと変化してゆく(→ギアーツAgricultural Involution: The Process of Ecological Change in Indonesia」)。大木は、歴史統計資料を駆使して、人口増加、耕地の拡張 傾向、米の生産動向、周囲の生態環境の変化、灌漑方法および栽培技術の変化など、微に入り細を穿つ分析を通して、米の輸出地域がなぜ輸入地域へと変貌した のかについて理由を求めている」(→「持続可能性の意味」)

ジャワにみられる健康現象の歴史的重層性

サスキア・サッセン『グローバル・シティ:ニューヨーク・ロンドン・東京から世界を読む』大井由紀・高橋華生子訳、 筑摩書房、2008年

1. 本書について

第1部 グローバル化の地理学と構図を読み解く

2. 分散と新しい形の集中

3. 対外直接投資の新しいパターン

4. 金融業の国際化と拡大

第2部 グローバル・シティの経済秩序

5. 生産者サービス

6. グローバル・シティ:脱工業化時代の生産の場

7. グローバル都市システムをつくるもの:ネットワークと階層

第3部 グローバル・シティの社会秩序

8. 雇用と所得

9. 経済再編:階級と空間の二極化

むすびに

10. 新しい都市のレジーム

エピローグ

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文献

その他の情報

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For all undergraduate students!!!, you do not paste but [re]think my message. Remind Wittgenstein's phrase,

"I should not like my writing to spare other people the trouble of thinking. But, if possible, to stimulate someone to thoughts of his own," - Ludwig Wittgenstein

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